もう一人の入浴客
私の趣味の一つにオートバイでのツーリングがある。
四季を感じながら走るのは、とても気持ちが良い。
今回は秋田県の男鹿半島に宿を取り、一泊でツーリングに行った際に体験した話。
早朝に出発し、明るくなる頃には男鹿に到着。
男鹿半島は秋田県の北西部にある、日本海に突出した半島。
風光明媚な場所で、美味しい魚も揚がる為、ツーリングにも最高なスポットだ。
綺麗な海を見ながら、大好きオートバイで走ると、日頃のストレスを消してくれる。
ぐるりと半島を周り、今晩の温泉宿へ向かう。
その宿は外観、建物内は古さを感じるが、女将や客室係の方の対応も気持ち良く、しっかり掃除も行き届いていた。
そして網元の宿の為、料理も豪華な海の幸を堪能。
ツーリングでの程よい疲労感、魚に合う秋田の美酒。
良い気持ちのまま部屋に戻り、一休みしてから温泉に向かった。
脱衣所から浴室に入ると、中は湯煙が立ち込め温泉の香りが鼻を通る。
内湯のみの温泉。
ゆっくりと浸かっていた。
カラカラカラ・・・
汗ばんで来た所に、入り口の開く音。
誰かが入ってきたようだが、私は目を閉じて温泉を堪能していた。
チャプ・・・チャプン・・・
(かけ湯もしないのか・・・)
若干の嫌悪感を感じたが、旅先で諍いを起こしても仕方がない為そのまま目を閉じる。
広い浴槽の湯煙の先に気配を感じながら、ゆっくりと身体を温めた。
(明日に疲れを残さない為、早めに就寝しよう・・・)
身体を起こし、立ち上がってもう一人の入浴客をチラリと見た。
誰もいない。
辺りを見渡すが、やはり誰もいないのだ。
先に出たのかとは思ったが、戸は閉まっている。
古いサッシだ。
私が入る時、そして何者かが入って来た時はカラカラと音を立てていた。
足元から寒気を感じ急いで部屋に戻った。
私はエレベーターが嫌いな為、階段で自室がある二階へ。
階段を昇り切りった先は突き当り。
右は非常口。
左に折れると長い廊下があり客室並ぶ。
一つ目のドアが私の部屋。
階段を昇り切り、左へ曲がる。
廊下の先に他の宿泊客が立っていた。
この旅館が出来た当時のものだろう、レトロなデザインの照明が薄暗く姿を照らしていた。
少々気まずさを感じ、自室に入った。
風呂で起きた事が気にはなっていたが、自室で缶ビールを飲み干し、布団に横になっているとウトウトし始めた為そのまま布団に入り眠りにつく。
7時に朝食を準備してもらっていた。
温泉のおかげか、ツーリングの疲れか、熟睡し朝食の時間にはスッキリと目が覚めた。
朝食も素晴らしい魚。
旅館の朝食といった形式の膳を平らげチェックアウトの為にカウンターへ。
「おはようございます、よく眠れましたか?」
「お陰様で、今日も元気に走りにいけそうです」
簡単な挨拶をし、手続きを済ませる。
女将が外まで見送りに出てくれ、身支度の間も声を掛けてくれる。
(良い宿だったな・・・)
「夜は少し寂しかったかもしれませんね」
「え?大丈夫でしたよ(笑)」
「昨晩は貸切でしたので・・・」
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