朽ちた小船
年末年始は両親共に家におり、テレビのチャンネル権も父が握っていた。
テレビは居間に一台のみ。
ゲームをしたいのだが父がリモコンを放すことは無かった。
暇を持て余した私は近所の友人を誘い、町内を沿うように流れる一級河川へ冒険に出かけることにした。
拾った長い棒で、枯れた植物を叩きながら川沿いを進む。
田舎の河川敷には、何故か大人の本が大量に捨てられている事が多く、小学生には刺激が強いながら、興味津々で見ていたことを憶えている。
しばらくすると、用水路の水門を発見した。
私の住んでいた町は米どころ。
その水門は田んぼに水を引く為の大きなものだった。
門を開く手動式のハンドルの下に、コンクリートで造られたトンネル。
その時は門が閉じていたのだが、トンネルに吸い込まれるようにして一艘の小船が半分沈んでいるのが見えた。
小船に興味を持ってしまった小学生。
私達は男の子。
船首を上にして沈んだ船を見逃すことは出来なかった。
冒険心を掻き立てられ、船をトンネルから引っ張り出すことにする。
手頃な長さの塩化ビニールの配管が落ちていた。
それを用い、船をトンネルの上から押し出す。
力一杯に押し、少しずつ、少しずつ押し出して行く。
その時、一気に船の浮力が回復し、力一杯に押していた私の力を受け流す。
そのままつんのめる様にして、抵抗する間もなく勢い余って水路に飛び込んでしまった。
爆笑する友人。
宮城県の真冬の水路。
一気に身体が硬直。
パニックになりながら陸に上がろうとしたのだが、思ったよりも深く足が着かない恐怖にジタバタとしながら陸地を目指す。
その時、視界の端に何かが映る。
パニックになった頭でも認識はしようとする。
棒?
違う、もっと太い。
そして形が・・・。
一瞬の間に考え、今度はしっかりと見る。
口を開けたトンネルの中。
水面から上半身を出した、ずぶ濡れの髪の長い女性。
青白い肌。
垂れた長い髪の間から見える青い唇。
そしてこちらを真っ直ぐ見つめる目。
急いで陸地に上がり、ずぶ濡れになった身体を痛い程の空気に晒し、急いで帰宅した。
あれは何だったのか。
当時の私は見えるだけだった為、知る由も無かった。
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