もう一人いる

若かりし頃は誰しもクリスマスは一大イベントと捉えていただろうと思う。

私もある年のクリスマス、素敵な女性とあるホテルに宿泊した時の話。


普段より混んでいるレストランでクリスマスディナーを済ませ、予約しておいたホテルにチェックイン。

綺麗なホテルで、私も彼女の気持ちも高揚する。


カウンターで鍵を受け取り、部屋へ向かう。



部屋のドアを開けるのだが、何か違和感というのか、胸がざわつくような感覚。



綺麗な部屋なのだ。


もちろん嫌な匂いもせず、白を基調としたインテリアがお洒落な部屋。


だが、そこに漂うズシリと重い空気。

そして部屋の匂いの中に、微かに漂う鼻腔の奥で感じる何か。



彼女を不安にさせてしまってはいけない。

ルームサービスでシャンパンを頼み、まずは乾杯をして気持ちを落ち着ける。


クリスマスに素敵な女性と、素敵な時間を過ごせることに喜びを感じていた。


ほろ酔いの気分と、雰囲気がとても気分が良かった。


部屋の入り口のドアを開けると左手にクローゼット。


右手にトイレのドア。


その隣に脱衣所のドア。


正面が居室。


居室に入ると右手にベッドが2台。


左手にキャビネット。


窓際にテーブルセットがあった。


夜景を望みながらのシャンパンは、少し大人になった気分を演出してくれる。



カラッ・・・



音の方向を見ると、クローゼットに隙間が開いている。



そこから覗く白い何か。


彼女は気付いていないようだ。


怖がらせたくない為、気にしないように振る舞う。



だが、それはまだそこにいる。


彼女に気付かれないよう目を凝らして見てみると、そこには縦に並んだ二つの目があった。



10cm程の隙間に目が浮かんでいるのだ。


顔を真横にして隙間を覗いているような配置なのだが、クローゼットの中は真っ暗。


雰囲気を出す為に、部屋も暗めにしている。


それでも目がハッキリと浮かんでいる。


目だけが。



しばらくして、彼女がシャワーを浴びに浴室へ向かった。


私は一人シャンパンを飲み、今は消えた目のことを考えていた。


その時、浴室から彼女が話しかけてくる。


「何覗いてるの~?」



浴室の方へ向かい、彼女に声を掛けた。


「俺、テーブルにいたよ」


「え~!やめてよ!」


どうやら脱衣所のドアが開いて、人が入ってきたそうだ。


浴槽から浴室のドアの曇りガラスを見ていると、黒い頭が出てきたとのこと。


怖くなったのか、さっさと上がり居室へ戻っていきた。


私も入ってしまおうと、お湯に浸かっていると、今度は居室から彼女の声がする。


「脅かさないでよ~!」


浴室から「何~!?」と返事をすると、小走りで近寄ってくる。


「今脱衣所のドア開けて見てなかった!?」



見ているわけがない。



すっかり怯えてしまった彼女。

可哀そうなほどに震えている。


私が居室に戻った後も、私の背中越しにクローゼットの辺りに人が立っているとのこと。


私が見ようとすると姿を消す。


それでも帰ろうと言わない彼女。


「もうベッドに入ろう・・・?」



何か変なのだ。



クローゼットの辺りから動かない。



こちらを見ていてもおかしくないはず。



彼女の寝息が聞こえる。

怯えていたにも関わらず、すぐに寝る彼女に驚きを隠せない。



私はクローゼットが気になり、彼女を起こさないようベッドを出て、前に立っている彼の脇を通ってクローゼットを開けた。



この部屋に入った時に感じた、微かな臭い。



このクローゼットからしていたのだ。



クローゼットの床を見ると、部屋とは異なるカーペット生地が乗せられていた。



床とは微妙に高さが違う為、とても違和感がある。



めくりたい衝動。


ゆっくりとめくる。



これが原因だろう。



お尻と太ももの跡であろう形の染み。


自身で命を絶った痕だと思われる。


これを訴えたかったのか?と聞くと、彼は消えていった。



フロントに電話し部屋のことを伝えると、即座に部屋をアップグレードし変更、更に宿泊券までくれた。



現在でも営業しているホテルだ。

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