修行のようなもの

私が見えるようになったのは家系の血と、偶然のトリガーがきっかけだったと思っている。


ただ、それだけではただ見えるようになっただけ。


私の場合少々状況が悪く、あちら側からコンタクトされるようになってきたのだ。

非常にマイナスの影響を受ける為、私は小学生の頃は常に下を向いて歩くようになっていた。

それでも下から覗き込んでくるものが絶えず祖母に相談することになる。



【スパルタな祖母】


私の生まれは福島県。


幼稚園の頃に見えてから、始めのうちは視界の端に見える程度だったのが、少しずつハッキリと姿を現すようになっていった。


小学生になり毎日毎日私の前に現れる。

登下校で付き纏われ、帰宅してから祖母に部屋に呼ばれ払ってもらう。


そんな毎日を送っていた。


ある日下校時、交通量の多い道の真ん中に女性が倒れているのが見えた。

小学生の頃の私にはどうしたら良いのかわからず、立ち尽くし見ているだけだった。



むく・・・



女性が起きた。


その瞬間、目を開いて瞬きする間に近づいてくる。



本能が危険を知らせる。


私は泣きながら必死に走って逃げた。


もう嫌だと祖母に相談すると、「ああ、そう・・・」と、とても素っ気ない反応だった。



小学4年生の時に、家庭の事情で宮城県に転居することになる。

最期まで引き留めたのは祖母だった。

だがどうしようも無かった。



【Y寺】


当時祖母は寺の手伝いとして働いており、ある日突然そちらへ連れていかれた。

転居前に抵抗力を私に身に着けさせようというのだ。


寺の裏にある古い建物。


そこで一人で一晩過ごすように言われる。


四畳半程の小屋。


夕方に小屋に入った。



壁板が痩せ、隙間から外からチラチラ光が入ってくる。


時計も無いため、現在が何時なのかもわからない。


入る時に渡された弁当を食べていた。


食べ終わる頃には、外はもう真っ暗になっているようだ。


裸電球の薄暗い部屋で暇な時間を持て余し、グルグルと歩いていた。



その時壁板の隙間に何かが・・・。



それに気付いて気を失う。


翌朝祖母に起こされ目を醒ます。


「よぐ頑張ったない」



【宮城県へ】


それからも変わらず見えてはいたが、何故か寄ってこない。

それどころかこちらを見てくるものもいなくなっていた。

私に何が起きたのか。


中学生になり、見えているだけなら慣れてきた頃。


今度は声が聞こえようになる。



見えているんだろう・・・



聞いて・・・



俺を家に連れて行ってくれ・・・



朝起きてから、夜寝るまで。

ずっと頭に響いてくる。

常時睡眠不足。

当時の私は常に苛々していた。


精神異常も三者面談で指摘された記憶がある。



その後私の抵抗力が通じない霊が近付いてくるようになる。


今後の様々な体験はこの辺りから始まる。


荒れた中学時代を終え、高校生となった。



【二度目のY寺】


どうやら私の力は勝手に強くなっていくようで、高校に上がった時には常に纏わりつかれるような状態になっていた。


常に身体が重く、私の持つ抵抗力だけではどうにもならなくなった。


そのタイミングで祖母から電話が来る。


「そろそろ限界がい?」


何故か祖母はわかっていた。


二週間時間を作って来いということで、夏休みを利用して福島へ向かった。


Y寺の住職にも「そろそろ頃合いが・・・」と言われ、また小屋に入ることになる。



基本的にはその小屋にいること。


日中ならばトイレや散歩程度の外出はOK。


夜は絶対に出ないこと。



その頃は携帯電話が普及し始めており、私も所有していたのだが没収された。

暇な時間がやってきた。


数年の間に更に建物の劣化が進んでおり、隙間が大きくなった気がする。



夜になると決まって音が聞こえてくる。



カリッ・・・カリッ・・・



ガリガリガリ・・・



壁を引っ掻くような。



怖い。


本気で。



高校生。

ある程度思考能力はあったと思われる。


だが、壁一枚隔てた所で行われていることが理解出来ない。


小屋の周りに敷いてある砂利。


それを踏みしめる音。



ジャリ・・・ジャリ・・・



ガリッ・・・



一際隙間が大きい板がある。


小さい頃に見たあの隙間。


そこで音が止まる。



隙間を見ていると、何故かまたそこで気を失った。



【最終日】


最初の10日程はすぐに気を失っていたと記憶している。


音が聞こえ始めてから、壁の外にいる何かを認識、集中するようになった。


ぼんやりとだが、動きがわかるようになってくるのだ。


集中するために裸電球を消し、更に目を凝らす。


不思議と恐怖感は消えていた。


ひたすらに集中。



止まった。



あの隙間の前。



人間の目は横長でほぼ真ん中に黒目があると思うのだが、そこにいるのは縦に開いた目が横向きに瞬きをしているのだ。



瞳孔は細長く、虹色の光を放っていた。



気が薄くなるのを堪え、ジッと目を合わせる。



・・・・・・・・・・・・・・・・・



頭に聞いたことの無い言葉が響いてくる。

お経のような響きなのだが、決して認識の出来ない音。


その後気付くとそれは消えていた。



程無くして、隙間から朝日が入り込んでくる。



その後

小屋の扉が開き、住職が入ってきた。



「ほう・・・終わりだな・・・」



私を見るなりそう呟いた。


どうやら私は何かを身に着けたようだ。


朝食を食べていると、祖母がやってきた。


「ああ、終わったのがい」


祖母も・・・。



何を身に着けたのか。


あれはなんだったのか。


これからどうしていけば良いのか。



誰も何も教えてはくれなかった。


ただ福島からの帰路、一切私の前に霊は現れることが無かった。


見ようと思えば見れる、そのような感じだ。


話しかけてくる相手には意思を伝えることが出来るようになっていた。



それから少しずつ、少しずつ、力の使い方を把握し現在に至る。


修業と言えることは何もしていないと思っているのは、こういった理由だ。


あれは修業と言えるのか。


あれはなんだったのか。


あれに言われた言葉のようなものはなんだったのか。



今現在も私の中での疑問として残っている。



先日祖母が亡くなった。


当時のご住職もお亡くなりになった。


私が入った建物も倒壊の危険があるという理由で取り壊されたようだ。



その寺に祖母が眠っている。

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