日々起こり続ける怪異

先輩のライター

夏といえば肝試し、そういった方も多いのではないだろうか。

当時私は高校三年生。

御多分に洩れず、私もそんな夏を過ごしいた。


いや、正直被害者というべきか。

私から心霊スポットに行きたいなどと、一度でも口にしたことは無かった。

先輩や友人達の間では、私と心霊スポットへ行くと必ず何かしらの体験が出来ると話が回っていた。

色々な人に、色々な場所に連行される。

そんな中の話の一つを書いていこう。


宮城県はお盆を過ぎると、朝晩は冷え込んでくる。

心霊スポット巡りのシーズンもようやく終わりかけた折、地元の先輩から着信。

「今晩心霊スポット行くからな」

毎度気は進まないが、同行することにした。

行先は宮城県の有名な温泉地、鳴子温泉。

現在は取り壊され姿は無いが、当時は有名なスポットとして多くの若者が訪れていた。


鳴子〇光ホテル


社員旅行ブームの頃には賑わいを見せていたのだろう。

絢爛豪華な作り・・・だった名残は見えるが、今では立派な廃墟となり果てていた。


主な噂としては・・・


・電気が通っていないはずのチェックインカウンターの電話が鳴る

・大広間にある日本人形が近づいてくる

・大浴場に響き渡る女性の唸り声

・飛び降り自〇があり、エントランスの屋根に激突。その光景が見える。

等々。ありがちな話だ。ワンパターン。


午後11時。


コンビニの駐車場で先輩と待ち合わせ、先輩自慢の爆音Y32グロリアに乗り込み目的地へ向かう。

先輩の彼女も一緒だ。

先輩の運転で約1時間田舎道を走り、鳴子温泉郷に到着。

かつて駐車場だった所は観光客向けに開放されている為、そちらへ駐車しホテルを目指す。

先輩がジッポーライターで煙草に火を着けながら、噂の一つ、飛び降り自〇を想像してかホテルを見上げて全体を見渡す。


「飛び降りのやつは見えないな」


煙草を吸い終わり中へ突入。

彼女は終始怯えているが、空気の読めない先輩はお構いなしにズカズカと入っていく。


「祟られてしまえ」


考えたことが思わず口から音となって出てしまう。


カウンターの電話のことを言っているのだろう。

「電話鳴んねーぞ?」

先程の私の言葉は聞こえていなかったようだ。


流石に真夜中の廃墟、幽霊どうこうではなく危険で気味が悪い。

当時LEDなんて物は無く、心許ない普通の電球の懐中電灯が二つ。


大広間に到着し周りを見渡す。

ここに日本人形があるとのことだが・・・あった。


懐中電灯で照らしていると、一瞬だが動いたような気がした。

じっと見ていたが動かない。

気のせいか。

私も雰囲気に飲まれていている。


「何も起きねーぞ?」

再び聞いてくるが、私にはわからない。

そして私のせいではない。

とりあえず女性の声が聞こえるという、大浴場を見てみようと提案。



その時ようやく気付いた。


先輩の彼女がいない。


先程まで私と先輩の間を歩いていたはずだ。


周囲には民家もある。

響かない程度、かつ大きな声で呼びかけながら捜索を始めた。

一階一階隈なく探し、最上階へ。



あは・・ははは・・・ははははははははははは・・・


笑い声が聞こえる。


遠くから。


奥を照らすと、大浴場の看板が見える。


そこから響いてくる・・・と思われる。


そして、聞き覚えのある声。


先輩の彼女だ。


走って向かい、脱衣所へ入る。

やはりここも徹底的に破壊され床や壁は穴がだらけ、何を意味しているのかわからない文字がスプレーで至る所に描いてある。


見渡すとそこには彼女が身に着けていた服が脱ぎ捨てられていた。


全て。


笑い声がする方へ急ぎ足で近寄ると、大浴場の広大な浴槽に裸で座り、笑い声を上げる彼女が。



あはは・・・あはははは・・・はははははははははははははは・・・


ガラスや割れたタイルを気にするそぶりもなく座っていた。


私が近付くのは憚られる為、先輩に服を着せてもらい急いで脱出。


先輩が彼女を背負い、私が後ろから二つの懐中電灯で足元と前方を照らし着いて行く。


その間彼女は笑い続けていた。



外に出て車へ戻った所で彼女が目を覚まし聞いてくる。


「なんで私おんぶされてるの?」


いよいよ危険を感じ、即座にこの場を離れることを先輩に提案。


当の先輩はポケットを弄り、煙草を口にくわえながらライターを探している。

どうやらお気に入りの、かなり高額なジッポーライターを失くしたようだ。


こいつ〇ねばいいのに。


通常こういった話は帰りに事故にあったり、幽霊が着いてきたり、手形が残っていたりということが起きるのだが、私の場合は起きない。


自宅まで送ってもらい、私は無事に帰宅。


降りる前に、私の知り合いの霊能者に彼女を見せるように伝えたが「もう大丈夫だろ」と。

どこまでも無責任な男に苛立ちを覚えた。



でもね、彼女ちゃんと背中に背負っているんですよ。


女性を。


爆音を鳴らし、先輩の車が遠ざかっていく。



三ヶ月後、先輩からの着信。


あの晩の数日後、何かを避けようとして電柱に正面衝突。

一発廃車になったそうだ。


先輩も彼女も幸いなことに軽症で済んだようで、私は胸を撫で下ろした。


その日は新しく購入した車の納車だったようで、何故か私も付き添いで行くことになった。


納車説明を先輩が受けているのを見ていると、トランクを開けたところで担当営業の方の動きが止まる。


「ん?少々お待ちください、清掃がまだ残っていたようで・・・。すぐに作業致します。申し訳ありません」


担当営業の方が何か手に持っている。


それはあの晩に失くしたはずの、先輩のジッポーライターだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る