第64話
同じ朝、病室に、夜の男が二人。
「また死に損ないましたか」
「死なれてたまるか」
「しおりさんは鈴江に似ていません。しかしどうにも面影が重なる。何故でしょう」
「鈴江さんも、元々は風俗嬢だった」
「そうですね。彼女達の強かさは我々も見習わないといけませんね」
「なら強かに生きてみろ」
「こうしてベッドに繋がれていると考えます。鈴江は今の私を見て何と言うかと」
「そんなもん後でいくらでも答え合わせ出来る。今のお前に出来るのは手術を受けてベルスに立ち続ける事だけだ」
「もう、夜が耐えられないのです。鈴江のいない朝が来るのが怖くてたまらない」
「ベルスはどうなる。あれは鈴江さんの魂だ。置いていくのか」
「鈴江はいない。死んでしまった」
風がカーテンを膨らませる。
外からは子供の声が聞こえる。
「聞け。ファイルを貰ってやる。その代わり手術を受けろ。ビルの名義は受け取らない。同じ立場で、生きてベルスに戻ってこい。断るなら俺が鈴江さんに会わせてやる。ベルスも、俺のグループも道連れだ」
「もう私は」
「黙れ。昼の世界じゃ、死んだ奴より生きた奴の方が大事らしい。それなら折衷案だ。これ以上もこれ以下も無い」
遠慮がちなノックが響く。
「おはようございま……えっ、マスター! どうしたの! 代表がいじめたの!?」
「ふふ、はい。怖ろしい人です」
「もう! 何やってんのよ病人相手に! 出ていって!」
小柄な少女は大男をぺしぺしと叩いて病室から追い出してしまった。
それを見て笑いが溢れた。今、とても生きていると感じた。
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