第47話


 せっかくなのでお昼はキンさんの店で食べようと、荷物の整理だけ済ませて外に出た。

 管理人はまだ水を撒いていたので改めて挨拶すると大城です、と小さく名乗った。シャイらしい。


 ジョートーに向かいながら島の様子を観察した。全体的に建物の背が低くく、家同士の感覚が広い。どこの庭にも車が駐まっている。人慣れした猫が沢山いた。野良かもしれないけど外飼いされている犬も気にしていないようだった。白い雲は絵のようにぴたっと空に張り付いていて時間がとまっているみたいだ。


 到着するとキンさんが気付いてくれ、窓側の明るい席に案内してくれた。おすすめされたタコライスにしたけど、メニューの写真を見ても味の予想が全くつかない。


 これはセットだからとスープとサラダが先に出てきた。これだけでも結構なボリュームだ。お待ちかねのタコライスは沢山の野菜とスパイシーなひき肉がごはんに合って美味しかった。量にひるんだけどチーズやらサルサソースやら色んな味がして飽きずに食べきれた。


 食後にサービスしてくれたコーヒーとケーキを味わっていると、水を持ったキンさんがあたしの向かいに座った。


「ゲストハウスは大丈夫そう?」

「はい。すごく綺麗です」 

「なんかあったら大城に言って。家族経営なんだ。すぐ対応してくれるから」

「ありがとうございます」

「ここは十八時までだけど仲間は海で飲み始めてるよ。集合時間とか無いんだ。勝手に集まって勝手に散ってく。しおりちゃんは十九時くらいにまたここに来なよ。一緒に行こう」


 キンさんの個人の携帯番号を教えてもらい、時間まではひとりで島を探索することにした。


 悪天候で到着が一日遅れてしまったのでそわそわしていた。ここに代表がいるかとも思うとじっとしていられず、お礼を伝えお会計を済ませると外に飛び出した。

 猫が塀の上からあたしを見下ろし、急ぎなさんなというように大きくあくびした。



 人が住んでいる家と住んでない家は何となく見分けが付いた。まず雨戸が閉めっきりだ。そして出入りが無いので雑草が玄関まで及んでいたりする。身を隠すには絶好の場所だけど、長期間滞在すると考えると無理があるかもしれない。


 海沿いはマリンスポーツの店が目立った。途中で大きなタンクを背負った一行とすれ違った時、皆足下にヒレを付けていてぺたぺたと海へ向かっていた。ダイビングだろうか。



 "Excuse me,can you please take a picture of us?"

「え?」


 あたしの目を見て笑ってるんだからあたしに言ってるんだろう。

 聞き返すべく歩み寄るとThank you!とカメラを渡された。なるほど。


 友達同士かな。アングルを変えてたくさん撮った。モデルさんみたいだ。

 あたしとしてはこの中のどれか一枚でも気に入ればと思ってした事だけど、親切と思われたのか何度も感謝され去り際にひとりずつぎゅっと抱き締められた。


 あっけにとられるあたしにとびきりのスマイルをくれると手を振って去って行った。嵐に合ったようにしばらく立ちすくんでしまった。


 観光客向けの店は島の入口側に密集しており、ある程度奥へ進むと住宅地になった。当てが無いのに人の家の前をうろうろするわけにもいかない。今日出来るのはここまでだと判断しゲストハウスに戻った。



 大部屋には新たな利用者が到着した所だった。大学生だろうか、よく似た雰囲気の二人組がベッドの上下をめぐって軽く揉めている。あたしのベッドは最奥なのでそっと通り過ぎた時、声を掛けられた。


「あれっひとり?」


 男性客だからあまり返事したくなかったけど、旅先でのトラブルはもっと避けたかった。


「知り合いを訪ねてきました」

「へえ。女友達?」

「いえ、」

「親戚?」

「仕事の」

「何の仕事?」

「せっきゃく」

「ふうん」

   

 会話が続かなくなり視線にも耐えきれず、そそくさと自分のベッドに避難した。嫌だな、大部屋。こういう事か。洋平くんと島袋さんのいる小さな箱が急に恋しくなった。


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