第39話


 国際通りに着くとシーサーの大きな石像に出迎えられた。迫力がある。


「なあ。そこ立てよ。写真撮ってやる」

「いいよ。観光で来てるんじゃないんだし。早く行こう」

「沖縄いる間ずっと気張ってるつもりかよ。捜すときとそうじゃないときは切り替えないと見付からなかったときのダメージでかいぞ」

「そうかも。でもいいの。写真好きじゃないの。早く行こう。おなかすいた」



 最初に目に付いた沖縄料理の居酒屋に入った。地下にあり階段は暗かったけど、店内は広くて明るかった。メニュー表の料理は写真付きだったけど味の想像が出来ずに全て洋平君にお任せした。


「泡盛頼んでいい?」

「何でも頼んで」


 混んでる割りに提供が早かった。一発目だからとクセの無いものを選んでくれたそうだ。実際どれも美味しかった。


「どう? 食える?」

「うん。美味しい。沖縄料理って初めて食べた」


 ゴーヤチャンプルだけは知っていたけど、想像よりずっと食べやすかった。ツナと卵がほろ苦いゴーヤと馴染んで美味しい。代表もここでゴーヤチャンプルを食べただろうか。そうだとしたら、全然似合わない。


 無意識に笑っていたみたいで、洋平君もあたしを見て嬉しそうに笑っていた。

 食後にぜんざいを食べながら作戦会議をした。


「明日朝早いぞ。二時間はかかるからな。お前を送り届けたら、俺は城跡でも見に行くよ。あそこにいたらタトゥー増えちまうからな。終わったら電話して。門前払いだったら、城跡付き合って。」

「分かった。オーナーさんどんな人?」

「顔が丸くてひげが濃い。当然のようにタトゥーまみれだし、牛みたいに鼻の間にピアスしててびびった。俺が会った時はな」

「すごい」

「でも良い人だから。アメリカ暮らしが長かったって言ってたな。色々話聞いてみなよ。面白い人だよ」

「代表の話が聞けるといいんだけど」

「まあな」



 テーブル会計だったので財布を出した。洋平君が気付く。


「アキの財布だ」

「そうなの。悩んだけど、これが最初にピンときてたの。これにしちゃった」

「見せて」


 洋平君は財布を手に取ると引っくり返したり表面に照明の光を当てたりした。人が持つと素敵に見える。


「レザー用のオイルとかクリームとかあるけど、アキんとこのはたまにブラシするだけで十分なんだ。俺がやってやるよ。後はたくさん触ってやった方が良い。革は色々塗りたくるより、人の手で触られるのが一番良いんだ」

「ふうん。そういえばあの日あたしに用があって引き返してきたって聞いた。何かあったの?」

「アキの奴。いいんだ、忘れてくれ」

「バイクで町田に送ってもらったの。初めて乗ったけど怖くなかったよ。洋平君もバイク乗る?」

「俺は事故って降りた。死にかけたんだよ。平日昼間の国道をパニックに陥れた」


 言い方が面白くて笑ってしまった。


「生きててよかったね」

「すり抜けしようとしたら対向車線のトラックに吹っ飛ばされたんだよ。俺、そんときまだ学生でさ、とんでもないスピード出してたんだ。医者に驚かれたもん。そんで怒られた。馬鹿者って、ひと言だけだったけど、すげえ食らった」

「運が良かったのかな」

「いや、フルフェイス様々だな。退院してから事故ったバイク見に行ったけど、俺じゃなきゃバイクって分からないような仕上がりになってた。それ見た瞬間泣いたよ。先輩から譲られたバイクってのもあるけど、めちゃくちゃ怖くなって泣いたんだ」


 洋平君は少し声を低くした。


「未だにぶっ飛ばしたり原付で二人乗りしてる奴とか見ると取っ捕まえて説教したくなる。マジで死ぬぞってな。だからお前にはジープがちょうどいいよ。あの車は固くて重いからな。バイク欲しいとか言い出したら、結構本気で止めるかもしれない」

「乗らないよ」

「そうしてくれ。行くか」


 地上に出るとすっかり暗くなっていた。土産物屋や飲食店の看板が眩しい。ひとまわりするかともなったけど、明日に備えて今日は帰る事にした。



 ゲストハウスには島袋さんが出してくれた布団が畳まれて置いてあり、敷くと個室がほぼいっぱいになってしまった。ブランケットをかぶって目を閉じると上で洋平君が寝返りを打つ気配を感じた。

 あたしは洋平君の命と引き換えに壊れてしまったバイクの事を思って眠りについた。


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