第12話


 客はロン毛でヒッピーみたいだった。


 肌の色が真っ黒だし髪は結ばずに肩に垂らしていた。ハワイを連想する匂いがした。


 こんにちはあと締まり無く挨拶して部屋に入り、コースとオプションの確認しながら客の様子を観察してちょっと頭の弱い世間知らず設定でいこうと決めた。


 見た目から個性がダダ漏れてる人は大体我が強いのであたしは人生一回目なんでお勉強させてくださいという姿勢を見せる。

 間違っても意見したり、話を遮ってはいけない。

 ひたすら喋らせ、気分を良くしてあげる。

 すごい、知らなかった、もっと聞きたいのコンボで攻める。おしもの世話はその後だ。さあ来い。


 客は君可愛いねと言って隣に座るように促してきた。よしよし。馬鹿だと思われ、さっそく胸に伸びてきた手をそっと掴み膝に置いてさりげなく両手で包んだ。


「そのネックレス、すてきね」


 客は空いてる方の手で呪術師かと突っ込みたくなるような鎖の束を鳴らす。


「インディアンジュエリーなんだよ。イーグルってわかる? 鷲の事なんだけど、リーダーシップのお守りなんだ。空高く飛ぶことが出来るから、物事を全体的に見て判断を下すことが出来ると考えられているってわけ」


 やたら説明し慣れている。


「へえ、なにかのグループに入っているの?」

「グループというよりコミュニティだね。人と違う事してガンガン稼ぎたい奴らが集まって、人脈作ってるんだ。今は渋谷のゲストハウス借りて生活してるけど、企業として立ち上げる計画があって、俺はそこでアドバイザーをしているんだ。若い頃ヒッチハイクとかバックパッカーとかしてたし、色んな経験あるからさ」


 グループとコミュニティがどう違うのか分からないし企業立ち上げとヒッチハイクになんの関係があるのかも分からないが、適当に話を聞きながら真剣な顔で相づちを打った。


 そろそろいいだろう。あなたってすごいのねと既に半分くらい固くなっているものに手を伸ばした。


 仕事の話をすり替え、好きなプレイについて聞きながらゆっくり行為を進めていった。客の反応も悪くなかった。


 客の視線を追いかけタイマーを見ると、終了六分前だった。ねえ、ちょっと上に乗って舐めてくれないかな、と客が呟いた。来た。あたしは用意していた台詞を口にした。


「でも、こわい。前にそう言って、いたずらしようとした人がいるの」


 ふいっと目をそらす。

 すると客はあたしの顔を覗き込む。


「俺はいたずらなんてしないよ」

「ほんとう?」


 客は大丈夫だから信じて、と自信満々に言った。大人の余裕とやらを見せつけて来たけど、試されてるのはお前だ。馬鹿め。


 自分がいかに有能でまわりに頼られているか散々語り倒した男には年下の女に嘘付けないだろう。プライドを満たしてやったのだ。


 こいつはもう何もしてこないと確信し、ご希望通り腹に乗って舐めてあげた。

 タイマーが鳴るまで、客の手が動くことはなかった。あたしの勝ちだ。


 プレイが終わると客は自分から起き上がり支度をしてくれた。喋りすぎたかなと心配したけど、大丈夫だった。

 仲良くし過ぎると終了後だらだらする客がいて、事務所から電話が来てしまうのだ。レンタルルームにも迷惑がかかる。


 客はあたしの名前をもう一度聞き、次回から指名するよと言ってくれた。

 お手付き無しならもちろん大歓迎。この客が本当の意味であたしと店のお客様になれるかどうかは、この先の客次第だ。


 あたしはにっこり微笑んで見送ってあげた。店の女の子を守れた気がして嬉しかった。


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