第11話


 二本目の客を取り終えると店長から相談があると事務所に呼ばれた。


 古参だけど女の子からNGにされる事が多い客についてだった。

 禁止行為ギリギリ、注意するとわざとじゃないとへらへら笑ってお茶を濁す。安価でプレイの内容がライトな風俗に多いタイプの客だ。


 悔しいがこの手の客はいちいち出禁にしてたらキリがない。指名無しで遊んでいくが対応出来る女の子が限られているので、たまには違う子と遊んでみたいと要望があったそうだ。ドアを蹴り開けて金払え指名しろと言ってしまいそうだ。


「指名じゃない以上こいつの希望なんてどうでもいいが、お前なら掴めるかもしれないと思って呼んだ。どうする」


 店長は無理はするなと続けたけど、あたしはチャンスだとも思った。新人として扱われているうちに、指名を増やしておきたい。それに嫌われがちな客が化ける事もある。何はともあれ、一回様子見だ。


 行きますと答えると、傾向と対策を教えてくれた。

 客は二十分コースで予約している。そこから三十分延長、オールヌードと客の胸を舐めるのオプションが付くはずだ。ここ二年変わらないと言う。


 問題はここからで、終了十分前になると腹に跨がり舐めてくれ言ってくるそうだ。そして腰を掴まれたら要注意。ついうっかりを何度もやらかしている。


 ありえない。こういうのは入ってないからセーフ、なんかじゃない。店との、女の子との、信用に関わる大問題だ。女の子は心に傷を負い、本人だって嫌われる。店にも大事にされなくなる。良い事なんて一つも無いのに、なんでそういうことするんだろう。


 クソ野郎だが禁止行為させないのもお前らの仕事だと言われ気を引き締めた。

 予約時間までしばらくあったので、いったんアパートに戻る事にした。



 買い置きのカートンから一箱取り出した。ぺりぺりとフィルムを剥がし口を開ける。ソフトの方が美味しく感じるのはなぜだろう。


 IKEAで灰皿代わりに買った陶器の小物入れを引き寄せた。白地に手書き風のハート模様が可愛くて気に入って買った。代表の顔が浮かんで消えた。


 広げた毛布にごろんと横になる。寝煙草は寮組の特権だなあ、真っ直ぐ立ち上る煙を眺めてそう呟いて少し目をつぶった。 

 頭の芯が痛かった。少し眠ることにした。


 新しくカーテンを掛けた部屋は電気を消すと真っ暗で、電話が鳴ったとき自分がどこにいるのか一瞬分からなかった。通話ボタンを押すと店長の声が聞こえてきて、当たり前の事に安心した。

 客の部屋が決まったと言われた。出動だ。


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