第7話


 話を終えた店長がピースを咥えると、そうすると知っていたかのように鰐が手を伸ばし火を付けた。そしてあたしを見ると、俺の事は代表と呼べ、と言って笑った。

 お前がクソ真面目かつクソ忠実だって事は俺からよく店長に伝えておいたからよ、そう続けるとようこそアンクへと言い残し出て行った。


 あたしの涙はすっかり乾いていて、店長に鏡見て来いと言われてしまった。メイクポーチを引っ掴むと事務所を出てトイレにかけ込み、自分の顔を見て悲鳴をあげた。

 これから本番だと丁寧に作り直した。鰐は本当に店の関係者で、なんならここのオーナーで、あたしは店長の信頼を失わずに済んだのだ。やる気が出た。


 事務所に戻ると店長は客と電話をしていた。

 丁寧に受話器を置くと、あたしを見て行けるか、と聞いた。もちろんイエスだ。


 今回指定された部屋は鰐と過ごしたレンタルルームではなかった。事務所の徒歩圏内にいくつか提携があるそうだ。知らなかった。


 道順を聞くと荷物を持って事務所を出た。 

 張り切って階段を駆け下りると、上から店長に呼び止められた。店長は階段をゆっくり降りてきて、何も言わずあたしのミニトートに何か付けた。


 お守りかキーホルダーだと思ったのに、それはあまりにも普通の防犯ブザーだった。リアクションに困り店長を見上げた。


「見えるよう付けとけ。お前みたいなやつには持たす事にしている。引っ張っても鳴らないフェイクだから有事には叫べ。あいつみたいな男は、蹴り上げたって構わない」


 返事を待たず事務所に戻ってしまった。

 あたしは複雑な気持ちで鳴らないブザーを撫でた。可愛くないけど、付けておこうと思った。



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