第3話
事務所の電話が鳴り、内勤が出たが客ではない雰囲気だ。ええとか、はいとか、しばらくやり取りした後に、なぜかあたし見て口パクで店長を呼んだ。店長は切れと言い捨て、煙草とパソコンを持って出て行ってしまった。
内勤はほっとしたように電話口に向かってすぐ伺いますんでと言い本当に電話を切ってしまった。ご近所のやくざだよおと言った。こわかったと言いケラケラと笑った。
自分の携帯から出来たてのホームページを眺めていると、店長しばらく戻ってこないだろうから、仕事の説明するねと言って内勤が店長の椅子に座った。
アンクはオナクラと呼ばれる比較的安価でライトな風俗店だ。
基本のプレイは"お手伝い"すること。オプションなしの二十分コースが一番お手軽で、平日昼間の新規サラリーマンは大体これだと教えられた。正直うまみ無いんだけど、うちは丁寧さで売ってるから優しくしてあげてねと言われた。
よくよく話を聞くとアンクの売りは丁寧さなんかじゃなく、指名または延長するとゴムを付けて口でするオプションが無料になるというシステムだ。ちなみにゴム無しは有料で金額が跳ね上がる。基本料金に対して指名料も延長料も高めだけど、このシステムは悪くないはずだ。客的には。
M気質のリピーターが多いから、上手く掴めばガッツリ稼げると言われた。
給料と出退勤の話も聞くと、形だけの契約書に名前を書かされた。ここにいていいよと言われたような気がして嬉しかった。
説明を終えても店長が戻らないので、勤務中に客を待つ部屋を見せてもらうことになった。
待機室は事務所のひとつ上の階あり、大部屋だが腰の高さのパーテーションで個室風に仕切られている。個別指導の塾みたいだ。
出勤前には毎回事務所に寄る必要がある。
ビニールポーチと釣銭用の財布を受け取る為だ。即出動の場合もあるから一発目はここで待機して欲しいけど、一度お呼びかかったら後はアパートで待機してもいいと言われた。
もし油断して電話に出なかったら店長に殺されるそうだ。世話役でもある内勤が。
レンタルルームとアパートの往復を繰り返し、最後の客を取り終わるともう一度事務所に寄る。そこでビニールポーチを預け、財布の中身とパソコン上の売り上げを確認し、問題なければ日当を渡され終了だ。
一通り説明したけど、と言って内勤があたしの顔を覗き込んだ。反射で見つめ返すとやっぱり緊張してるのと聞かれた。緊張しなくなったらおわりだと答えた。おわり。何の途中にいるのかは、分からないけど。
内勤は、君は売れそうだねと言って笑った。
説明を聞いただけでそんな風に言ってもらえるなんて光栄だ。やっぱりアンクは良い店だ。
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