第2話


 内勤が持ってきたのはデニムのショートパンツとヒートテックみたいな素材のぴっちりしたTシャツだ。ショーパンにTシャツなら私服でも構わないと言われ、シャワーカーテンを退け買い物リスト第一位になった。


 大きめのビニールポーチも渡された。

 キッチンタイマー、ストッキング、薄手のゴム手袋、スリッパ、ボトルのローションなど、全てのオプションをカバーする細々した道具がぎっしり入っている。

 チューブは何に使うんだろうと戦慄していたら、コンドームは入れてないんだよと言われた。提携のレンタルルームが受付で渡してくれるそうだ。正直嬉しい仕組みじゃない。あたしはあまり、人と関わりたくないから。


 バスルームで着替えを済ませ、ビニールポーチは自前のミニトートに入れると内勤は満足したように頷き、じゃあ行こうかと立ち上がった。

 この部屋で研修かと思ったと言ったら、俺店長に殺されちゃうよ言って笑った。

 笑うと同い年くらいに見えた。研修が内勤じゃなくて、本当によかった。



 事務所には出たときと同じようにパソコンの前に店長がいて、あたしを見るとちょいと手招きした。雑に扱われるのは嫌いじゃない。むしろ好きな仕草だ。


 これ見て、とパソコン画面を寄せてくれた。

 顔にふんわりとしたモザイクのかかったあたしが、床にぺたんと座り首を傾げていた。

 二枚目は所謂お姉さん座りでさっきよりも自然な感じ。三枚目は立って撮ったバストアップで、他よりふっくらして見えて少し気になったけど、これが小さい画面で見た時一番分かりやすいと言われトップ画像に設定されてしまった。

 これを見て二枚目三枚目も見てくれるかなと思ったけど、何も言わなかった。例によって。


 しばらく他の写真を眺めていると、店長がぼそりと呟いた。一瞬何かと思ったけど、すぐ源氏名の候補だと気付いた。

 あたしはいつも本名で働いていたからここもそのつもりだったけど、店長が考えたあたしの新しい名前は昔からそう呼ばれてたみたいにしっくりきた。いちごミルクとかじゃなくてよかった。それでいいと言う代わりに小さく返事をした。


 写真のフォルダを閉じてプロフィール欄に飛んだ。そこには既にあたしの見た目の雰囲気と、性格もとい性癖について可愛い顔文字を織り交ぜながら結構なボリューム感で記入されていた。不備も不満も無かった。


 空欄に決まったばかりの源氏名を入力してもらうと嬉しい気持でいっぱいになった。

 仕上がりに満足してにこにこしていると、おもむろにラミネートされた紙を渡された。

 客に見せるオプションのメニューだ。

 この中からNGを教えて欲しいと言われ、きちんと読んだけど怖いプレイはひとつも無かった。ありません、と答えると初めて店長の顔に表情が浮かんだ気がした。


 店長はしばらく黙り込むと、写真と動画撮影のNG欄にチェックを入れて更新した。

 内勤と研修を済ませてくればよかったと後悔した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る