第08話 悪女

 ──ざわざわっ!


 フフフフッ。

 議場がざわついてるざわついてる。

 わたしの提案内容にもだけれど、アイリの変わりようも大きいのでしょうね。

 きっと。


「道の駅……だって?」

「仲買人を入れないだと? うちの収入源が断たれるじゃないかっ!」

「道路の建設費用はどう賄うんだっ!?」

「いや、カジノ誘致を進めているわたしには、まあまあ悪くない話だ。もう少しお嬢さ……アイリ議員の話を、聞いてみようではないか」


 カジノ誘致おじさんからの助け舟。

 この隙に、話をガンガンぶっこむわ!


「……ありがとうございます。この農道計画、および道の駅計画は、農村部の将来を考えてのもの。当然ながら農家には、それなりの負担……増税を願います。いまのところいかがでしょう、議長?」


 フフッ……。

 増税増税の日本からやってきたわたしが増税を提案する身になるとは、皮肉な話。

 けれど、興貴、華穂……。

 あなたたちには、そんな真綿で首を締めるような攻めかたはしない。

 リセットは……一気にするわっ!


「ふむ……。北部領土との交易は、わが領積年の課題。あちらは海……港があるからと、まったく動こうとせんからの。だがそれでも、農道建設は支出が大きいのでは?」


「そこは、最も低い金額を提示した企業へ発注する、一般競争入札制度を導入することで、公費の負担を抑えたいと思います」


「一般競争入札……。建設会社を競わせて、値切るわけか?」


「ええ。そしてこの制度には、領外の企業にも参加権を与えます。低価格競争に弾みがつき、当領未進出企業の誘致にも繋がるでしょう」


「それは地元企業から不満が出はせんか? それに……」


「……談合の懸念、ですね?」


「う、うむ」


「企業同士が口裏を合わせての価格操作も、当然考えられます。ですがそこはそれ、手練手管のこの場の皆さんが、上手く整えてくださるかと。業績不振の企業とそろそろ縁を切りたい、鞍替えしたい……なんて方も、おられるのでは? くすくすっ♪」


 ──ざわざわざわ……。


 落札に有利な情報を欲する企業からの賄賂、献金。

 お抱えの会社へ落札させるために、議員の立場を利用。

 領外の大手企業の誘致と、それで生じる新たな税収……。

 あなたたちにとって、そこそこ旨味のある話。

 これはわたしとルドの二人で練った案。


「それに……ち・ち・う・え? 北部の領土との道を造ったヴァンダル・ラモディールの名は、落成記念碑へと刻まれ、この地で永く語り継がれるでしょう。農道の名を、ヴァンダル・ロードと命名するのもよろしいかと。あ……っと、これは私語につき、議事録からは削除願います。うふっ♪」


「よ……よさんか、アイリ……議員。議会の場で冗談は……」


 そうは言いながらも、肥え太った頬をせいいっぱい吊り上げてニンマリ……。

 ヴァンダル・ロードの響きが、お気に召したようで。

 これは元の世界の、命名権販売……ネーミングライツの応用。

 そしてこの計画は……わたしも大のお気に入りっ!

 特にこの……ルドが作ってくれた地図の、農道のコースがねっ!


 ──バサッ!


「皆様、この地図をご覧ください。わたしの部下が作成した、広域農道の草案です。こちらを参考に、ご検討ください。残念ながら、立ち退いていただく農家も出てきますが……。それを最小限に抑えた案です」


 ──おおっ!


 ……わたしはこの領の事情なんて、心底どうでもいい。

 この世界の地図を塗り替えることへの躊躇もない。

 この地図にわたしがルドへと出した、たった一つの注文。

 それは…………興貴と華穂の畑を潰すことっ!

 興貴と華穂が耕した畑を、更地に変えて……。

 関係性のリセットを一気に進めるわ!

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