ツイントーーク!② ゲストは彼氏の幼馴染?
「——ねえ、二人ともちょっといい?」
休憩時間のときだった。浜辺でお城をつくって遊んでいる双子に柚月が声をかけた。咲人がトイレに行っていたタイミングだったので、光莉は「なるほどね」と小さく呟いた。
「もしかしなくても、咲人のこと?」
柚月はギョッとして「うっ……」となった。
「そ、そうだけど、光莉ちゃんと千影ちゃんも関係してること……」
「うちらが? なにかな?」
「その……どっちが咲人の彼女なの?」
光莉と千影は互いに顔を見合わせ、クスッと笑い合った。
「逆に、どっちが彼女だと思うのかな?」
「それがわからないから訊いてるの。咲人は秘密だって教えてくれないし……」
「どうしてそのことが気になるんですか?」
「うっ……さ、咲人は、私の幼馴染だし……」
そんなことは理由にならないかと思いつつ、柚月は緊張を隠すように二人から目を逸らした。
柚月は『あじさい祭り』のときから、宇佐見姉妹を苦手に思っていた。
千影は気が強い部分もあるし、怒らせると怖い。男子の松風隼に対しても、食ってかかる勢いで意見を言っていた。美人だが、機嫌を損ねてはならない人だ。
光莉も笑顔の仮面で心の内を見せない。それなのに、ズバリといろいろ言い当ててくるから、相当頭のキレる人なのだろう。
二人のうち、特に光莉のほうが苦手だ。今だってそう——訊ねる前に「咲人のこと?」と言われ、頭の中を覗かれたような気分だった。
そんな感じで、姉妹揃って怒らせたら怖い人たちなのだと柚月は理解していた。
ただ——本当は優しい人たちだとも思う。
中学時代までの咲人に比べて、今、穏やかな表情で過ごしている咲人を見れば、この二人の影響力は強いのだと認めるしかない。
美人だし、スタイルもいいし、頭も良くて、運動もできて——凡人の自分にはないものを、この双子姉妹はそれぞれ持っている。素直に、敵わない人たちなのだとも思う。
咲人が彼女たちに出会って変わったのなら、自分も知りたい。咲人をどうやってあそこまで変えられたのか? そのことが柚月は気になって仕方がなかった。
それから、どちらが彼女なのかも知っておきたかった。
その理由は、柚月自身も判然としない……が、それでも——
すると、光莉が「はいはい」と手を挙げた。
「じつはうちが咲人の彼女なんだよね〜」
「あ、ズルいっ! 違います! 私が彼女です!」
千影も、自分が自分がとアピールするように手を挙げた。
「えっと……だから、本当はどっち?」
「うち!」「私です!」
柚月は大きなため息を吐いた。
咲人だけではなく、この双子にまでからかわれているのだろうか。
「……わかった。じゃあ、こうしない? 咲人の『ある秘密』を教えるから、どっちが付き合っているか教えてくれない?」
「咲人の秘密? なになに?」
「どんな秘密ですか? 気になります」
双子姉妹が興味を示した。
「咲人にとって恥ずかしい秘密というか、弱点的なところ」
「なにそれっ⁉」
「とっても興味があります!」
「じゃ、どっちが彼女か、正直に手を挙げて?」
「うちうち!」「私です! 私!」
ダメだこりゃ——と、柚月はまた大きなため息をついた。
ただ、今のやりとりで一つだけわかったことがあった。柚月はそっと微笑を浮かべる。
「……二人とも、咲人のことが好きなんだ?」
光莉と千影は顔を合わせて頬を赤く染め、
「うん!」「はい!」
と、純真無垢な笑顔を柚月に向けた。
いよいよ、咲人の彼女がどっちかなのかわからなくなったが、この二人の笑顔を見ているうちに、なんだかそれもどうでも良くなってきた。
咲人が良いほうに変わったのはこの二人のおかげ——そう思うと、なんとなく気持ちが軽くなった柚月だった。
それにしても——
咲人が、彼女がいると言っていたのは嘘だったのだろうか。
いや、自分が知る限り、咲人は嘘をつくタイプの人間ではないはず。少なくとも自分に対しては——ああもう、わからなくなってきた。
ただ一つ、今、どうしても気になることがあった。
柚月は双子姉妹のつくっていた城を指差した。
「あの、それ……さすがに、城過ぎない?」
「「え?」」
聞き慣れない「城過ぎる」という言葉に双子姉妹はキョトンとしたが、二人の前には高さ一メートルほどの立派な砂のお城ができていた。しかも細部までこだわっている。模型のようで、とても砂でつくったとは思えないクオリティだった。
するとそこに咲人が戻ってきた。
「——あ。それ、ノイシュヴァンシュタイン城? ドイツの」
「さすが咲人、よくわかったね? 世界一美しいって言われているお城だよ♪」
「咲人くん、将来は三人でここに住みましょう!」
「いや、無理じゃないかなぁ? 敷金とか礼金高そうだし。——それにしても細かいところまで再現できててすごいなぁ。写真撮っておこう」
柚月はいろいろツッコミたかったが、この三人の一般人とはズレた感覚に、どこからどうツッコんだらいいものやら、ついにわからずじまいだった。
ただ、写真を撮ったあとのこと——
「柚月さん、ちょっといいですか?」
柚月は、千影からそっと声をかけられた。
「その……昔の咲人くんのことを教えてもらってもいいですか?」
「え? どうして?」
「咲人くんのことを、もっとよく知りたいと思いまして……ダメでしょうか?」
千影は自信がなさそうに、それでいてきまりが悪そうに言った。
(この子……光莉ちゃんに勝ちたいのかな……?)
怖い人だと思っていた。
けれど今は、恋愛に不安を抱えた可愛らしい女の子にしか見えない。
おどおどとした千影に共感を覚えた柚月は、少しだけ咲人の過去を伝えたのだった。
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