「おめでとう」「ありがとう」
「もうユウ。晩御飯いらないなら先に言って? せっかく作ったのに勿体無いでしょ?」
家に帰り着くとパパに怒るママの姿がソファーに座ってスマホをいじっている未呼の姿が入り込んだ。僅かに笑みを含んだ未呼の口角が、誰とやりとりをしているのか容易く想像させた。
いつまでも避けてはいられない。
私は勇気を振り絞って未呼のそばに行き、声を掛けた。
「あ、あの未呼! さっきはゴメン……! 急に出ていって」
「え、あ……ううん。想愛、お父さんと一緒だったんだね。無事なら良かった。宿題入ってたカバンは想愛の机に置いてるから」
どこかギコち悪い空気が二人の間に漂う。このまま未呼と気まずくなるのは嫌だから、そのままもう一押し誘うことにした。
「ねぇ、一緒にお風呂に入ろう⁉︎」
「……え、お風呂?」
「そう、お風呂! 行こう!」
姉妹二人でお風呂に入るのなんて小学生の時以来だ。けれど今日は割り切って、姉妹水入らずの話をしたいから。
スポポポポーンっと脱衣を済ませた想愛は、さっさと身体を洗って浴槽に入った。そして時間差で服を脱いだ未呼も気まずそうにボディソープを泡立てて身体を洗い始めた。
「——っ、そんなジロジロ見ないでよ。私、未呼みたいに胸大きくないし、コンプレックスなんだから」
「え、そうなの? でも未呼ってスラっとしててモデルみたいじゃん。私なんてお尻も大きくなって、なんか嫌なんだよね」
「……男は想愛みたいなエロい身体の方が好きなんだよ。想愛って、本当にそういうことに興味がないよね?」
興味がないっていうよりも、邪魔だって思ってる。
本当は陸上で短距離の選手を続けていたけれど、胸が大きくなってきたせいで走りにくくなって辞めてしまった。ちょっと前までは男子よりも速かったのに、もう追いつかない。
私が未呼みたいなスレンダー体型だったから、もう少し良いタイムが出ただろうに……。
「つくづくさ、私と未呼って似てないなーって思うよね。私は未呼みたいになりたかったなー」
「………そうなんだ。想愛が私のことを羨ましがってるなんて、思いもよらなかった」
「え、何で? そんなことないよー! 頭もいいし、美人だし、良いことばかりじゃーん! 同じ双子なのに未呼ばかり褒められるし羨ましいことばかりだよ!」
似ているようで似ていなかった私達は、互いに同じようなことで悩んで、羨ましがっていて。
そのことにやっと気付いた私達は綻ぶように笑い、そして認め合った。
「未呼、おめでとう。ずっと和晴くんのことが好きだったの?」
「……ありがとう、想愛。うん、本当はね……ずっと憧れていたの。でも和晴くん、実はずっと想愛のことが好きだったんだよ? 気付いていた?」
「えぇー、全然気付かなかった! それって本当? 未呼の勘違いなんじゃない?」
「違うよ、二人のことをずっと見ていたから気付いたんだよ。でも想愛が恋愛に興味ないなってことにやっと気付いて、私と付き合ってくれたの。だから付き合ったって言っても、まだ私の片想いみたいなものなんだけど……」
しょげた顔で俯いて。そんな未呼が堪らなく可愛く見えて、そのまま力任せに抱き締めた。
「想愛……っ、何? え?」
「そんなことないよ! きっと和晴くんは未呼の良さに気付いて未呼と付き合ったんだよ! だって今日の二人はとても素敵だったもん。せっかくキラキラした関係になれたのに、そんな思い込みで暗い顔をしていたら勿体無いよ! 私……羨ましかった。未呼と和晴くんを見て、すごく羨ましかったよ?」
まだ誰かを好きになるって感情が分からなくて本当はとても恐いけど、いつか私も二人のように幸せな顔をしながら微笑み合いたい。
「ねぇ未呼。また色々話を聞かせてね? 私、二人のことを応援してるから」
「……ありがとう、想愛。うん、これからはちゃんと話すよ。だからまた色々と聞いてね」
こうして私達は仲直りをしてお風呂から上がった。
リビングに行くと心配していたパパと目があったのでグッと親指を立てて笑って見せたら、安堵したような笑顔を溢してくれた。
「あ、そういえば蒼空くんが想愛のことをスゴく心配してたよ? 勝手にお店を飛び出したから。あの後追いかけて出て行ったけど、会わなかった?」
「え、いやー……全力で駆け抜けたから」
後先考えずに飛び出したことを深く反省した。まさか減らず口ばかり叩いている蒼空兄
がそんなに気にかけてくれていたなんて気付かなかった。
電話したほうがいいかなって思ったけど、急に気恥ずかしくなって止めた。
「——明日、お店で謝ろう」
せっかくのいい気分が台無しになったら嫌だ。メッセージだけ送って、想愛はスマホをベッドに投げた。
・・・・・・・・★
やっとifの初恋の彼女が完結したので、思いっきり子供達の話を書きます。
執筆が出来る限り、更新していきます✨
そしてよろしければ★やコメント、応援などを頂けると嬉しいです^ ^
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