一緒にご飯を食べに行こうか?
和晴と付き合い出したと告白してきた未呼に、想愛はショックを覚えて二人に合わせる顔がなかった。
気付けばお店を飛び出して、感情のまま走り続けていた。
通り過ぎる街並み。だけどその光景がいつもより色褪せて見える。
「いつから……? 嘘だ、嫌だ、ヤダ……っ!」
好きとか、付き合うとか、そんなの分からない。なのに双子の妹である未呼はそれを知っていて、自分よりも先を歩いているのだ。
ずっと同じでいられない。変わるんだ。同じ環境にいても私と未呼は別々で、それぞれの道を歩むのだ。
そもそも双子なのに二卵性で全然似てない。
顔も性格も、身体付きも似てない。
最近、さらに大きくなった胸を両手で掴んで寄せ上げた。
付き合っているってことは、あの二人も……そういうことをするんだよね?
「——想愛? こんなところでどうしたんだ?」
多くの人が行き交う人混みの中から想愛を見つけたのは、尊敬している大好きなユウパパ。
振り返った時に見えた優しい表情に、堪えていた涙がボロボロと落ちた。
「パパァ……っ! 私、怖い……怖いよォ」
ハッと驚いた顔をしたパパの胸に飛び込んで、そのまま縋るように泣き付いた。周りの人が不審な目を向けるけど、そんなことも気にせずにパパは私の頭を撫で続けて慰めてくれた。
「——少しは落ち着いた? 大丈夫か?」
グズっと、鼻を啜りながら私は小さく頷いた。突然のことだったにも関わらず、何も聞かずにそばにいてくれて。そんなパパが私は大好きだった。
クラスの男子とは違って落ち着いていて、なのに私のことをよく分かってくれる。
他の友達のお父さんとは違う……この独特な雰囲気が好き。
「未呼とケンカでもしたのか?」
「……ううん、違うの。ケンカじゃないけど」
でも未呼が和晴くんと付き合い出したなんて、私の口から伝えていいのか判断できなかった。それに父親として娘に彼氏が出来たとか微妙なんじゃないかと余計な気を遣ったりしていた。
「……そっか。それにしてもお腹空いたな。想愛、父さんと一緒にご飯でも食べにいくか?」
「え? いいの?」
「うん、想愛と一緒にゆっくり話したかったし。美味しいパスタの店があるから行ってみる?」
あまりの嬉しさに二つ返事で頷いた。
やった、やった! パパとご飯だ!
こうしてパパと一緒にお店に入って席に着いた。地下にあるテーブルが4つとカウンター席のある小さなお店で、レコードなど年季の入ったアンティーク品が並んでいて大人の雰囲気が漂っていた。
「このお店のご飯はどれも美味しいんだけど、おすすめはレモンクリームのサーモンパスタかな。想愛はどうする?」
「えっと、それじゃそれにする。あと、このパフェが食べたい」
「何でも食べていいよ。想愛が好きなの頼みな」
注文する姿すらスマートでキラキラして見える。きっとパパは小さい頃からモテてただろうな……。
ポーッと見惚れていると、不思議そうな顔で首を傾げたパパが頬杖をついて尋ねてきた。
「どうした? 父さんの顔に何かついてる?」
「う、ううん! 違うの! あ……ねぇパパ。ちょっと聞きたいんだけど……パパって初めて恋人ができたのっていつ?」
娘からの予想外でデリケートな話題を振られ、わずかに口角を引き攣らせたが、すぐに笑みに戻して口を開いた。
「父さんはね……一応、大学生の時になるのかな? 僕の両親が死んだ時に支えてくれた人がいるんだけど」
今まで頑なに語られることがなかったパパの話に私は興味津々だった。大学生の時に何が起きたの?
「——父さんは付き合っていると思っていたんだけど、その人は陰で他の男の人と付き合っていて、そのまま父さんから離れてしまったんだ。その人のことを思い出しただけで人間不信になりそうだったな」
「ほ、ほぇぇぇぇェェー⁉︎」
意外と苦労人⁉︎
でも今はすごく幸せそうだし、そんな修羅場を乗り越えていたのだね、パパ!
まるで愛読している漫画並のドラマチック展開に、ますます興味が湧いた。それからどうしたんだろう?
「けど、そんな父さんを一途に思ってくれていたのがシウお母さんだったんだ。今、父さんが幸せだって思えるのは、全部お母さんのおかげだよ」
偽りのない屈託のない表情を見て、羨ましいと思った。
お父さんは本当の恋を知っているんだ……。
テーブルに運ばれたパスタをフォークですくいながら自分の未来を悲観した。私にもそんな恋ができるのだろうか?
未呼みたいに好きな人ができるだろうか?
「無理して恋をする必要はないよ。回りのことなんて気にしないで想愛のペースで前に進めばいい。それまではこうして父さんと一緒にご飯を食べて欲しいな」
「……うん、ありがとう。ふふっ、ねぇパパ、このパスタ美味しいね」
「このお店で食べたことはお母さんと未呼には内緒だぞ? あの二人に話したら怒られるからな」
二人して悪戯な笑みを浮かべて、無邪気に笑い合った。
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