子供達のハナシ
変わらないと思っていた関係が、動き出した
私、
親同士が仲が良かったのもあり、まるで兄弟のように育った私達だけど、この関係がずっと続くと思っていた。
私達は変わることなく、いつも通りの明日が来ると思っていたのは私だけだったのだと、私は悲しいほど痛感した。
「ねぇねぇ、
「うん、行く。想愛も行くなら課題持って行った方がいいよ? 帰ってからしてたら忘れると思うから」
中学3年生となった私達は、日課のようにBARダンディへと入り浸っていた。
店長のママさんが優しいっていうのもあるけど、幼馴染のお兄ちゃん、
年下の
「そう言えば想愛。この前、三組の男子に呼び出されてなかった?」
「え、もしかして山田くんのこと? あー……友達になりたいってIDを渡されただけだよ? まだ登録してないけど」
悪びれた様子もなく呆気羅漢と伝える私に、未呼は呆れながら溜息を吐いた。
「早く返してあげなって。もしくはちゃんとお断りしてあげないと……。想愛みたいな態度が一番人を傷つけるんだよ?」
「えー、そんなこと言ったって。私もちゃんと言ったよ? 忙しいから中々返事できないと思うけど、それでもいいならって」
「それ、全然返事になってないから。期待させてるだけじゃん」
期待って何を? 友達になるのに期待も何もないじゃん。
イマイチ未呼の意図を掴み切れていない想愛は「ま、いっか」と能天気に用意を進めた。
山田くんには申し訳ないけれど、今は他の友達と遊ぶよりもいつものメンバーで集まる方が楽しい。
新たな関係を築くよりも、慣れた人達と集う方が気楽でいいのだ。
「それじゃ、イコおばあちゃーん、行ってきます!」
「晩御飯の時間には戻るから。行ってきます」
二人は自宅を出て、集まりの場所へと向かう為にバス停へと急いだ。
甘ったるい大きな瞳が特徴的な天真爛漫で明るい想愛。中学生にも関わらず大きく育った胸が男子の視線を独り占めしていた。
そして想愛の妹の未呼。彼女は母親譲りの切れ目の目に落ち着いた雰囲気が生じ、クーデレ美少女と噂されて他校にファンクラブが出来るほど人気があった。
「そう言えば未呼も卒業した先輩に声を掛けられていたよね? 校門で待ち伏せされててビックリしたけど」
「あー……アレね。少し怖かったよね。一回で諦めてくれたからよかったけど。あまりのもしつこかったらお父さんに送迎を頼もうかと思ってたんだよね」
——やっぱり、そういうことだったのかな?
二人ともそれなりにモテてはいたけど、実は未呼の方が男子の人気はあった。未呼のことを待ち伏せをしていた先輩も、去年まで学校一イケメンと呼ばれていたアイドル系美青年だったのだが、美男美女の両親を持った二人のメガネには敵わなかった。
「やっぱお父さんみたいな人じゃないと、いいなって思えないんだよね。シウお母さんが羨ましいな」
「分かるー! やっぱパパはカッコいいよね! 優しいし、あんな彼氏が欲しいなー」
二人してファザコンと性癖を拗らせつつあったが、こればかりは仕方ないと諦めていた。だってあんなにママのことを大事にするパパを見ていたら、そりゃ理想は高くなる。私もあんなふうに彼氏に大事に、甘やかされたい。
「あ、そういえば知ってた? 和晴くんもこの前チア部のキャプテンに告白されていたみたいだよ?」
その話題に未呼の耳がピクリと動いたのが見えた。滅多に他人に興味を示さない未呼が珍しい。
「チア部のキャプテン、可愛いもんねー♡ 私よりも胸が大きいし、とうとう和晴くんにも彼女が出来るかな?」
「——そんなわけないじゃん。和くんをそこらの男子と一緒にしないでよ。見た目だけで付き合ったりしないよ」
「えー、そんなの分からないじゃん! 和晴くんだって男の子だしー」
「絶対に有り得ない」
言い切る未呼に違和感を覚えつつ、私は彼女の気迫に圧されて黙り込んでしまった。
やっぱり未呼も、何だかんだでこの幼馴染との関係が壊れるのが恐いのかなー……なんて思いながら見守っていた。
「それを考えると蒼空兄か、さくらちゃんに恋人ができる可能性が一番高いかなー? さくらちゃんは小学生なのにママの孫の
「ふぅーん、そうなんだ」
ふぅーんって、本当に未呼って回りに興味がなさ過ぎ。一緒にバスに乗っているというのに未呼はずっとスマホをいじってばかりだし、この温度差が少し寂しいと思うことがある。
せっかく双子として生まれてきたんだから、もっと仲良くしたいのにな……そう思いながら想愛は外を眺めて唇を咎して拗ねていた。
それからしばらくして、お店についた二人は勢いよくドアを開けて入って行った。
「ママー、コンニチハ! またお店で遊ばせてね!」
「お邪魔します。今日も二階お借りします」
カウンターで夜の準備を始めているママと蒼空に声を掛けて、そのまま階段に向かった。ニコニコと見送るママと、呆れた顔で顔を顰める蒼空兄……。
「また来たのかよ、お前らは……」
「いいじゃん、別にー。二階だから邪魔にならないでしょ? ちゃんとジュースも頼むし、片付けも手伝うし」
「そういう問題じゃなくて……ハァ。もういいや。想愛はリンゴで未呼はアイスコーヒーでいいん?」
「うん、いつもので! ありがとう蒼空兄!」
2階へと上がっていくと、すでに来ていた和晴くんがさくらちゃんと堅護くんの宿題を教えていた。さくらちゃん達とは3、4才しか違わないはずなのに、優しく教える様子を見て和晴くんがとても大人びて見えた。
「……あ、未呼と想愛も来たんだ。遅かったね」
「うん、想愛が準備するのに時間かかって」
「えー、私だけのせいにするの? 未呼だってメイクし直したりで時間かけてたじゃん
!」
「もう、うるさい。想愛は余計なことを言わないでよ」
普段はクールで滅多に表情を変えない未呼が顔を真っ赤にして、なんか珍しい反応だ。
そんな未呼を「よしよし」って和晴くんが頭を撫でて、あれ……? 何だろう、違和感が込み上がるのは。
「あー……、ダルいな。お前らが来たら二階まで運ばないといけないから面倒なんだよな」
遅れて入ってきた蒼空兄のおかげで雰囲気が戻ったけど、今度は蒼空兄が異変を察したのか、和晴くんと未呼に不信の視線を送っていた。
「——なんだ、お前ら。何か……変な雰囲気醸し出して」
そう、そうなんだ。いつもと何だか雰囲気が違うんだ。でもその違和感の正体が分からなくてモヤモヤが収まらないのだ。
すると未呼が和晴くんの袖を掴んで「もう、言っちゃう?」って耳打ちをして、それに応えるように和晴くんまで覚悟を決めたように頷いて。
そんな二人だけの雰囲気に、私は嫌な予感が拭えなかった。
だって私達は、ずっと変わらない——……
「僕ら、実は付き合うことになりました」
ずっと、変わらないと思っていたのに……二人の告白に私達の関係が、変わってしまった。
「え、うそ。いつから?」
「……実は三日目くらいから。ごめんね、想愛には先に伝えようかと悩んだんだけど、どうせなら皆一緒の時がいいかなと思って」
さくらちゃんや蒼空兄達が二人に祝福の声をかけているけれど、あまりにも突然のことに、私は固まって動けなかった。
信じられなかったし、信じたくなかった。
この居心地の良かった関係に終止符を打たれたことが、とても嫌だった。
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