再び、この手で抱くことが出来るなんて……
イコside...
シウの妊娠を聞いた時、私は思わず信じられないと目を見開いて、崩れるように座り込んでしまった。
20年前に自分が妊娠してると分かった時、絶望と意地が脳裏を支配していた。別れると啖呵を切った男の子供だと信じていた私は、その人との縁が切れるのが恐くて———そして自分を選んで宿ってくれた命が愛しくて、捨てられなくて、自分勝手に産む決断をしたのだ。
その選択は私を
「シウ、良かったわね。本当におめでとう」
「お母さん。ありがとう……!」
細めたその瞳からは今にも大粒の涙が溢れそうだった。だがその涙は温かい、優しい雫。
そしてその涙を拭って支えてくれる人がシウにはいる。その人は私が妊娠した時も優しく手を差し伸べてくれたのに、どこで選択を間違えたのだろうって、たまに考えることがある。
だけど、今の私なら言える。
「シウ、ユウくんと幸せになってね」
私の隣にはもう愛しい人の姿はないけれど。大丈夫、ちゃんと笑えてる。
うん、大丈夫。
「あー……でもねぇ私、36歳でおばあちゃんになったよー? 早くない?」
「———そりゃ、イコさんがシウを早く産んだんだから仕方なくない?」
「それにしてもシウまで早く産む必要なくない? もっとゆっくり、若いうちにしかできないことをしてから子供を作れば良かったのにー」
心底呆れた顔をしたユウくんに私はグチグチと不満を垂れた。
うん、嬉しいよ? 孫ができたのは。
それにユウくんの年齢を考えれば早いに越したことないと思うし。けどね、それにしても早い。
「……いや、シウが早いんじゃなくてイコさんが早かったんだからね? 大体、16歳で妊娠出産の方が珍しいから」
「もうユウくんは口煩いなー! そんなネチネチしてるとシウにも嫌われちゃうよ、ねぇ?」
私は腕に抱いた想愛に笑い掛けながら声を掛けた。確かに早いとは言ったけど、孫は可愛い。目に入れても痛くないと本気で思えるから不思議である。
やっとハイハイを始めた想愛と未呼のほっぺを撫でながら、幸せを噛み締めていた。このとろけるようなマシュマロほっぺが愛しい。
「想愛も未呼も本当に可愛いわね。でもまさか双子を妊娠するとは思ってもなかったわ」
初めての出産で双子の親になったシウとユウくんは、手探り状態で子育てを頑張っていた。倍どころか数倍になって押し寄せてくる疲労に二人とも疲れ果てて、毎晩ぐったりと倒れ込んでいた。
だが猫の手も借りたい状況のおかげで、私は戻ってくることができたのだ。
シウの時には出来なかった子育てをこんな形でするとは思わなかった。もしもユウくんと正面から向き合って不妊治療をしていれば、違う形で子供を抱いていたのだろうか?
柔らかい表情で未呼をあやすユウくんを見て、複雑な感情が芽生えて誤魔化すように顔を歪めた。一度は夫婦という関係だった二人……。裏切ったのは私だけど、落ち着いてカッコよくなったユウくんに心を惑わされることも少なくない。
心に決めた人は揺るがないのだけれども———……。
『シウが羨ましいって思うことも、嘘じゃない。だからこれは私なりのケジメ』
両親にも手がかからなくなり、また一緒に暮らさないかとシウ達に声を掛けてもらったが、それを私は丁重にお断りした。
一途なまま貫かせて欲しい。
もうブレるようなことはしたくない。
孫に溺愛したばあばってポジションも悪くないんだけれども、その肩書きになるにはまだ女を捨てきれない。
かと言って
「だぁ、だ!」
「あら、想愛? どうしたの? オムツ替えたいの?」
ぷっくりと柔らかい小さな手を見ながら、幸せを抱き締めて。皆が残してくれた未来に感謝した。
「……ダメね、年を取ると涙脆くなって」
「いいんじゃない? 前のイコさんよりもずっといい表情をしてるし。僕も今のイコさんの方が話しやすくて好きだよ」
サラッと言われた好感の言葉にドキっとするけれど、この言葉に特別な意味が込められていないのは分かってる。
あぁ、空からミチが『まーたお前って奴は……』って、呆れながらため息を吐いている姿が目に浮かぶ。
彼は私の一番の人で、それでいて本当の気持ちを知ってくれている理解者だったから。
「想愛、未呼。大好きよ……あなた達はたくさんの愛情を受けて大きくなってね」
ミチと私と、シウ、ユウくんの血を引き継いだ二人を優しく抱き締めた。
・・・・・・・・・★
「もう絶対に誰にも言わない。墓場まで持っていく秘密……」
ちょこちょこ出してはいたんですが、イコは決別した時からユウへの気持ちを自覚しています。もちろんミチのことが一番に好きだけど、ユウのことも……。そしてそんなイコの気持ちをミチも気付いていて、その気持ちがあったからユウにイコのことを託そうとしました。
———とはいえ、一部であれだけのことをしたイコさんw
絶対に言えないですよね💦
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