第124話 ・・・★ 絶望 【イコ視点】

 ・・・★ イコside...


 ユウくんが出勤して直ぐのことだった。閉めたはずの鍵が再び開いて、何か忘れ物でもしたのだろうかと思っていた時のことだった。


 玄関から入ってきたのは金髪の歯並びの悪い

 男と深くフードを被った黒マスクの男。

 恐怖で足が竦み、目の前が大きく歪んで絶望した。だけど自分がしっかりしなければと意識を持ち直した。

 奥の部屋ではシウが眠っている。娘だけは、命を掛けて守らないといけない!


 床に這いつくばって必死にキッチンへ向かった。相手は何か武器を手にしていた気がする。おそらく金属の棒かバットを持っているに違いない。それに鍵を持っていたってことは、ユウくんを襲って奪ったのだろうか?

 彼は無事なのだろうか? こんなに堂々と不法侵入してくるような奴らだ。こちらもなりふり構っている場合じゃない。


 最悪は刺し違えてでも守らないと———……


「おぉ、イコ発見! 良かった、お前の実家に行ったけど見つからなかったから、どっか逃げたかと思ったよォ」


 見つかった……!

 振り返った時にはあっという間に距離を縮められ、思いっきり頬を叩かれた。

 焼けるような頬の痛みと衝撃。だがそんなのは初手で、倒れ込んだイコの髪を掴むとまたしても力一杯に殴られて戦意を削がれた。


「ごめんな、イコー……お前らが大人しく言うことを聞いてくれれば、こんなことしなくてすんだのにさァ。俺ね、ちょっと金に困ってたんだけど、とうとう首が回らなくなってさ。臓器を売るか、家族を風俗に売るかって言われた時にお前達の話を聞いたんだ。なァ、あの子は俺の子だろう? なら俺が自由にしてもいいよな? なァ? それと俺に黙って産んだ罰として、イコも俺の為に身体売ってくれよ、な?」


 ———なんて自分勝手な解釈なのだろう?

 誰がお前の子だって言った?

 誰がお前なんかに渡すって言った?


「シウは……私が産んだ子よ。私が、ミチさんとの子だと信じて産んだ子なの……! アンタなんかがつけ込む隙間なんて1ミリもないのよ!」


 だが今度はお腹を思いっきり蹴られ、内臓が潰れるような激痛が走った。それでも穂村の攻撃は収まることなく、何度も何度も執拗に蹴り続けてた。


「おいおい、お前も聞いただろう? 俺とあの子の血縁関係はちゃーんと証明されたの。だからお前らは黙って言うこと聞くしかないのォ。それが家族の義務、お分かり?」


 ———そもそも、こんな頭の悪い行動を選ぶ男が正式な手順を踏むとも思えない。

 数十万円の金額を払ってまで結果を得たのなら、もっと正式な手順を踏むはずだ。

 ちゃんと法的に文書として送り届けて、役所で認知手続きをして、それでも可能性は低いけど……ゼロではないやり方をするはずだ。


 だが穂村は、見せるだけで証拠として突きつけたりしなかった。今の時代、ネットで調べればサンプルなんていくらでも湧いてくる時代だ。


『僕は穂村が本当の父親だとは思えないんだ。まだ守岡と会った時の方がしっくりきた』


 そう、ユウくんが思った直感———それはイコも同様に感じていた違和感。

 穂村にはシウの面影が一切感じられない。

 だからこれは何の根拠もない脅迫、不法侵入、それに暴行罪を犯してまで追い詰めてきているんだ。そんなクソ野郎にはついでに詐欺罪までつけて訴えてやればいい。


「シウがアンタの子供だっていうなら、証拠を出しなさいよ! このクソ野郎!」

「な……っ、このアマ! それはこの前、あいつらに見せただろうが!」

「だからそれを出せって言ってんのよ! 正式な書類なら堂々と見せられるでしょ? それとも出せない理由があるの?」


 そもそも本当の家族なら、血の繋がった娘を不幸にするようなことはできないはずだ。

 可能性が低いけど脅しやすいから、穂村はイコとシウをターゲットに選んだんだ。


「クソクソクソォー……、ふざけんな! 舐めんなよ、この底辺プア野郎が! テメェらは俺の養分になればいいんだよ! 馬鹿みたいに騙されて怯えて男に腰を振ってりゃいいんだよ!」


 またしても殴る蹴るの暴行を繰り返した後、虫の息のイコの口にタオルを突っ込んでから腕を背後に回してビニールの結束バンドで手首を拘束してきた。


「おい、娘の方は見つかったかァ?」


 穂村の言葉にもう一人の男が「こっちは終わりました」と告げて口元をタオルで縛られ毛布に包まれたシウを抱き上げて姿を見せてきた。


「ハッ、今更DNA鑑定が本物だろうと偽物だろうと関係ねェ。俺はお前らを売って金さえ出来ればどうでもいいんだよォ」


 こうしてイコとシウは二人の男に連れ去られて車に乗せられた。ドアが閉まった瞬間、全てが終わったと悟った。絶望で目の前が真っ暗になる。


「これからお前らの恥ずかしい写真を撮って風俗に売り飛ばしてやるよ。せいぜい俺の為に身を粉にして働いてくれやァ」


 ・・・・・・・・・・★


「悔しい悔しい、悔しい……! こんな奴に騙された自分が憎い。こんな奴に屈した自分が許せない……! でもまだ、シウだけは———……!」


また明日、更新がんばります……!

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