第119話 ・・・★ 俺が君のお父さんだよ 【シウ視点】

 ・・・★ シウside...


 イコの前に穂村が現れる数週間前の出来事———……。


 学校が終わって、今日は久々にユウと一緒に買い物に出かけようと約束していた日だった。

 だが人伝に校門の所で待ち伏せしているホスト崩れの男がオオムラという生徒を探していると聞いて、警戒するように待ち合わせの場所へと急いだ。


 根岸との一件があって以来、迂闊に男性と一緒にならないように気をつけていた。幸いにも傷は目立たないくらいに治ったが、ふとした時に……少し恐くなる。


 早くユウに会いたい、その一心でバレないように駆け足で抜けたと思ったのだが「ねぇ、君!」と腕を掴まれ引き止められてしまった。


「君のお母さんってイコって名前でしょ? すげーアイツの学生の時のまんま! いや、もっと美人になってる? 流石優秀DNA!」

「な、何ですか! 離して下さい、私は貴方なんて知らないですから!」

「そんな冷たいこと言わないでくれよォ。ねぇ、俺と君、似てると思わない? ねぇねぇ?」


 ニタァ……と笑う顔が気持ち悪い。

 どこが似てるというの? 助けを呼ぼうと防犯ブザーに手を掛けた瞬間、庇うように肩を抱かれてそのまま男から引き離した人影に守られた。


「———怯えているじゃないですか、無闇に女性の手を掴まないでくれませんか?」


 聞き慣れた声に安心して顔を上げた。


「……ユウ!」

「あァン、何だよテメェ。俺はその子に約束があんだよ! テメェには関係ねぇんだよ!」


 カッとなった男はユウに掴み掛かろう手を伸ばしたが、逆に手首を掴まれてそのまま背中に回され「イタタタタッ!」と悲痛の声が上がった。


「彼女は僕の婚約者なんだ。無闇に近付くのは遠慮してもらえませんか?」

「痛いッ、イテェよ、テメェ! 放せよ、放さないと警察に訴えるぞ!」

「アンタが彼女に近付かないと約束してくれたらな」

「分かった、分かったから放してくれェ!」


 その言葉を信じて腕を解放すると、男は二、三回大きな呼吸をした後に再びシウに手を伸ばして髪を鷲掴みにして引っ張ってきた。ブチブチと何本もの髪が頭皮から抜けて、思わず声に出して痛がった。


「痛……っ!」

「シウ! アンタ、何してんだよ!」


 流石の行為に周りの生徒も男から引き離した後、シウを保護するように守ってくれた。

 窮地に追い込まれたことを察した男は「チィッ!」と大きな舌打ちをして逃げる様に、無様な醜態を晒しながら立ち去った。


「シウ、大丈夫か? 怪我はなかったか?」

「だ……大丈夫。少しビックリしただけ……」


 バクバクと早鳴した心臓を落ち着かそうと深く深呼吸したけれど、一向に落ち着いてくれない。


『あの男、お母さんの名前を知ってた……。それにあの言葉、似てる……? 私と、あの男が……?』


 不安のせいで顔面蒼白で唇を震わせるシウを宥めようとユウは抱き締めてトントントン……とリズミカルに背中を叩いてくれた。


 小さい頃からシウを守ってくれた頼れる存在。シウにとって、絶対的な存在。


「ユウ、恐い……スゴく恐いよ」

「大丈夫、僕が絶対にシウを守るから」


 もう、シウ達の幸せを壊す存在なんてなんだと信じていた。なのに———そんな願いをぶち壊すかのように、数日後男は再び現れた。しかも今度はマンションだ。

 エントランスを潜り抜けて部屋の前まで来たのだから、ユウの警戒も限界に達していた。


「ねぇ、シウちゃーん。この前は驚かせてごめんねェ? 俺さ、どーしてもシウちゃんと話したかったんだよねェ」

「私は何もありません。っていうか、何で自宅まで知ってるんですか? 普通に恐いんですけど……!」

「高校生のくせに良いところに住んでるんだなァ、お前も。子供の物は親である俺の物だよな? へへ、俺も一緒に住ませてくれよ、なァ?」


 男はシウとユウにDNA鑑定という書類を見せつけてシウとの血縁関係を証明してきた。どうやらこの前に髪を掴んだ時に入手した髪で調べたようだ。

 でもこの男に見せられても信憑性がない。捏造だって可能だ。こんな男が父親だなんて信じたくもない。


「アンタ……、今更何だよ。何で今になって父親って名乗り出たんだよ!」


 急に現れて父親だと名乗り出て、シウ達は不快感と戸惑いを隠せなかった。


「なぁに、ちょっと風の噂でイコに子供がいるって話を聞いてね。もしかして俺の子ならずっと放ったらかしにしていた償いをしたいと思ってさァ。当たり前だろう、俺はお前の父親なんだから。だからこんな男と一緒に暮らさねぇで、俺と一緒に来いよ!」

「嫌だ! 絶対に嫌‼︎」


 シウはユウの背後に隠れるように身を潜めたが、それが気に食わなかったようで逆ギレするように喚き出した。

 今まで認知もしてこなかった父親のくせに、一丁前に主張して。ひたすら恐かった———……。


「シウ、今日はこのまま帰ってやるけど、お前のことは絶対に諦めないからな! 俺とお前が血の繋がった親子であることは変わることのない事実だ! お前は俺のモノだ! 絶対にその男から引き離してやるからな!」


 ・・・・・・・・・・・・★


「毒親の元に生まれた子供ほど可哀想な子はいないだろう———……」


イコさんも、当時はこんな奴だと思っていなかったし、思い出さない程の付き合いだったんでしょうが……それにしても救われない。


暗い内容なので、一気に駆け抜けます!

今回は三本仕立てで17時05分公開です。

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