第118話 続く普遍的な日常、そして迎える18歳
月日が流れ、浅春の季節が過ぎて、春の息吹の漂う季節と変わり……そしてシウ達は高校三年生へと進級していた。
去年までの少女だと思っていた彼女の面影はもうない。一年前の、親子だった時が懐かしく感じる程に、二人は順調に月日を重ねていった。
「ほらユウ。見て? 三年はリボンが青碧になるんだよ」
長い赤毛掛かったロングの髪をうねらせて、シウはクルッと回ってみせた。
こういうところは年相応だなと笑みを浮かべながら微笑ましく眺めていた。
「シウは進学希望クラスだったよね? 今年も和佳子さんと同じクラスになったらいいね」
「多分、一緒になれると思うよ。和佳子とも話していたんだ。良い奥さんになるために家庭スキルを上げようねって」
あれから和佳子さん達も順調に交際を続け、初旅行で更に仲を深めたらしい。ネズミーランドが大好きな和佳子さんの要望で。オフィシャルホテルに泊まって朝から晩までアトラクションやパレードを堪能したとか。
ネズミのカチューシャを付けた雪村の写真を見た時は盛大に吹き出したものだ。
「今度は4人で行きたいねって話をしてたんだ。そういえばユウは絶叫系とか得意な方?」
「僕はあまり得意じゃないと思うな。シウは好き?」
「私はあまり行ったことがないから知らない」
そういえば幼少期に動物園に行ったのが最後だと思い出した。ユウの仕事が平日休みの為、中々休みが取れないのが理由とはいえシウには随分寂しい思いをさせてきたと反省をした。
きっと彼女は、他の子供が経験している殆どの家族との思い出が欠落しているから、当たり前を知らないことが多いのだろう。
「ユウ、どうしたの? 早く学校に行こうよ」
今更だけど……普通の家庭に生まれれば、当たり前の幸せを手に入れていたんだろうと思うと胸が苦しくなる。
「シウ、あのさ……、もし人生をやり直すことができるとしたら、どんな人生を過ごしたい?」
唐突な質問だったがシウは少しの間だけ考えて「今が幸せだから、きっと同じ人生を選ぶと思うよ」と満面の笑みを浮かべてくれた。
そんなシウを見て、ユウも同じように笑った。
だがやっぱり神様というのは、この親子に優しくない———……。
【イコside...】
「待ってよ、急に押しかけてきたと思ったら勝手なことばかり言って!」
実家に戻ってきて数ヶ月が過ぎた頃。やはり出戻りの女は目立つようで近所でも色々と噂が絶えなかった。
特にイコの場合は16歳で出産していた為、格好の噂の的になっていたのだ。当時も針の筵のように突かれていたけれど、今の野次馬達の好奇心は衰えるどころか酷くなっていて散々苦しめられていた。
そんな彼女を更に追い詰めたのは、当時交際があった同級生の
「だからさー、中学の途中からイコって学校来なくなったじゃん? アレって何でだろうと思ってたら子供産んでたって聞いてさ。あの頃、俺とも付き合ってたじゃん? だからもしかして俺の子供の可能性もあんのかなーって思ってさ」
ブリーチを繰り返して傷んだ品のない金髪。カサカサの肌に黄ばんだ歯並びの悪い口元。当時はそれなりにモテ男だった穂村だったが、18年の年月は残酷だと物語っていた。
今まで何の音沙汰もなかったのに、今更何の用だ? きっとロクなことじゃないと一瞥してドアを閉めようとした瞬間、穂村の足が開閉を先止めた。
「話は終わってないのにズルくねェ? なぁ、俺の子の可能性があるなら会わせてくれてもいいだろう?」
「あの子は絶対にアンタの子じゃない! 帰ってよ! 二度と私達の前に現れないで‼︎」
必死に身体を突き放し後ろへとよろめいた瞬間、隙を見て閉め出した。
今になって脂汗が滲み出た。何で、今更?
当時は守岡の子供だと信じ切っていた為、他の男の可能性を考えていなかったが、あの男の言う通り当時、少しだけ交際があった穂村の可能性もなくはない。
だけど、嫌だ———……。
「どうしよ、こんなの。誰に相談すれば良いのよ……!」
せっかく訪れた平穏な日々に、またしても黒い影が掛かる。自身から出たサビとはいえ、このままではシウにも迷惑がかかってしまうかもしれない現状に、イコはひたすら絶望していた。
・・・・・・・・・・★
「ここからサヨナラが始まるなんて、思ってもいなかった」
一部の時に語られなかったシウの父親、彼の登場がラストになります><
守岡が亡くなった今、家族って何だろうと考えさせられます———……。
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