第114話 本音を打ち明けていきましょう

「なぁ、永谷。この前のクリスマスパーティーだが、私にサプライズを計画してくれていたと聞いたが、結局はどうなったんだ?」


 もう新年も明けて大分経つというのに、今更その話題を掘り返すのかとユウは心底嫌そうな顔を見せた。

 そもそもそのサプライズは既に他のカップルが現在進行形でハッピーエンドへと進んでいる。今更チャンスを掴み損ねた神崎さんの出る幕ではないのだ。


「なんだ、何か言いにくいことがあるのか?」


 そうです、大有りです。なのでそのままスルーを希望します。

 ユウが「すいません、資料の整理があるので……」と席を外そうとしたが、今日に限って中々解放して貰えなかった。


「何だ、永谷。そんなにはぐらかされると気になるじゃないか! なぁ何を計画していたんだ?」

「もう終わったことだからいいじゃないですか! 当日じゃないと意味がなかったことですよ!」

「当日じゃないと意味がなかったこと? まさか……永谷、お前から私に何かしようとしていたのか?」

「意味が分からないです。何故そこで僕が出てくるんですか? 食べ物とか生モノとか連想して下さいよ」

「な、生モノ……! お、お前……そんな卑猥なことを!」


 ダメだ、この人頭が末期になっている。こんな人に大事な同期を紹介しなくて良かったとつくづく思っていた。


 その後、ユウ達の展示場に打ち合わせで来た雪村が「お疲れ様です」と声を掛けてきた。今回は作業着なのでこの前とは印象が違って見えるが、表情は穏やかで幸せいっぱいなのが一目で伝わってきた。


「ふひゃ……っ、雪村くん⁉︎ え、打ち合わせ?」

「神崎店長、お久しぶりです。ちょっと永谷くんのお客様の件で打ち合わせさせてもらいますので、打ち合わせ室をお借りしますね」


 目元をクシャっと細めて、物腰の柔らかい雰囲気のお陰で社内でもトップクラスのモテ男と言われている雪村だ。神崎さんもおそらく狙っているだろうとは思っていたのだが、この様子だと案の定だったようだ。


 神崎さん、今更髪を気にしてセットしても意味がないです……。もう雪村のハートを射止めた女性が現れたので手遅れなんです。


「永谷、この前は本当にありがとう。お礼の飲み屋は僕が決めたけど良かった? 串焼きメインの僕好みの店だけど」

「勿論、むしろ全部任せてゴメン」

「いいよ、いいよ。僕も永谷の話を聞きたかったし。今日は久々に同期水入らずで飲もう」


 一緒に入った同期も今ではユウと雪村だけになってしまった。だがこの雪村は波長が合うので何かと相談に乗ってもらっていたし、互いに愚痴を言い合いながら切磋琢磨しながら頑張ってきた仲だ。そんな彼がやっと幸せそうに笑ってくれたのがユウは心の底から嬉しかった。


「何だ、永谷。もしかして打ち合わせの後に飲みに行くのか? なら私が奢ってやるから雪村も水城も一緒にどうだ? な?」


 雪村との打ち合わせと称した雑談の最中だというのに、ズカズカと入ってきた神崎さんが勝手に取り仕切ってきた。

 いや、困る! 今日は雪村と大事な話をしたいので邪魔をしないでもらいたい。


「えぇー、神崎さーん。急にそんなこと言われても無理っすよー! 神崎さんはいつも行くホストクラブよりも安くで男を侍らせるって思っているかもしれないですけど、皆忙しいし相手がいる野郎ばかりなんですからね?」

「なっ、そ……そうなのか? 永谷!」


 ナイスだ、水城。今日はお前の毒舌に感謝する。


「すみません、神崎さん。今日は永谷くんと約束していて。また今度、飲みましょう?」


 だが諦めの悪い女、神崎はまだ食らいついていた。ここまで言って無理なのなら、脈はないというのに。


「永谷、雪村。二人で飲むなら私が混じってもいいだろう? なぁ、金は私が全部出すから……何ならタクシーチケットも付けてやるぞ?」


 粘れば粘るほど嫌がられることに気付いていないのだろうか? 流石の仏の雪村も困ったように苦笑を浮かべていた。


「えっとー……同席してもいいですけど、後から僕と永谷くんの彼女も合流しますけど、問題ないですか? 神崎さんが肩身の狭い思いをするかもしれませんが」

「え……?」


 数秒の沈黙の後に、神崎の絶叫が展示場に響いた。

 何に対しての驚きだろうか? 雪村に彼女ができたことだろうか? それとも雪村がキッパリと断ったことに関してだろうか?


 ちなみにシウ達が合流するというのは予定にはない。つまり雪村は遠回しに誘いを断るために嘘を吐いたのだ。この男、見た目に反して悪い男だ。だがこの警告は有効だったらしく、瀕死になった神崎さんはフラフラと事務所の自席へと戻っていった。


「———悪い男だな、雪村」

「いやいや、神崎さんがいたら、ゆっくり話ができないからね」


 これ以上厄介なことにならないうちに仕事を上がろうと、二人は打ち合わせを称して展示場を後にした。


 ・・・・・・・・・・・★


「あ、ちなみに依頼された中村さんの家のメンテナンスだっけ?」

「あぁ、屋根修理らしいので日程決めて現地調査をお願いします」

「はーい、了解」


 打ち合わせ、三十秒で終了。


 次回の更新は6時45分です。続きが気になる方はフォローをお願い致します!

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