第111話 ・・・★ 神様からのプレゼント【和佳子視点】

 ・・・★ 和佳子side...


 誰にも打ち明けられなかった胸の内をスッキリさせ、和佳子は吹っ切れたように部屋へと戻っていった。何たって今日はクリスマスイブ! 良い子にはサンタさんがプレゼントをくれる日だ!


『私以外は皆、幸せカップルという地獄のような状況だけど、私はちゃんと見切りをつけてリスタートを切ったんだ! 後悔は……ない‼︎』


「今日はとことん歌いますよー! シウシウー、歌おうー♪」


 マイクを奪い取ってソファーに乗って仁王立ちをした時だった。部屋の入り口が開いて知らない男性が入ってきた。


 アッサリした塩顔系のインテリ系なイケメン。年はユウさんと同じくらいだろうか?

 挙動不審な動きに他の皆にも動揺が走った。部屋を間違えて入ってきたのだろうか?


雪村ゆきむらさん、遅かったですね!」

「あ、永谷くん。ごめん、ちょっと打ち合わせが長引いたんだ」


 その人はユウさんを見つけて胸を撫で下ろしながら近付いた。なんでもユウさんとは会社の同期で主にアフター工事を担当しているらしい。


「久しぶりに永谷くんに会ったらクリスマスパーティーをするから一緒にどうかと言われたんだけど、まさかこんな若い子ばかり集まる会だとは知らなくて……。こんなおじさんが参加してもいいのかな?」

「僕より雪村さんの方が年下だし大丈夫ですよ。ほら、水城もいますし気にしないで下さい」

 

 そんな二人に水城も加わり、しばらく会話が続いていた。残されたメンバーはこれ以上メンバーが増えると思っていなかったので内心慌てていたが、相変わらず空気を読まない瀬戸が曲を入れて歌い出した為、また賑やかな雰囲気へと戻り出した。


 その後、雪村さんは余っていたトナカイの服に着替えて一緒にカラオケパーティーに混じって歌い出した。多少選曲にジェネレーションギャップを感じつつ、皆で楽しく歌って充実したクリスマスを過ごした。


「はぁー、久しぶりにカラオケで歌ったよ。しかしこんなオジサンが参加して良かったのかなー」


 和佳子の隣に座った雪村は、ビールを飲みながら声を掛けてきた。ユウや水城とはまた違ったタイプのイケメンに和佳子は動揺しつつ、いつものように明るく返した。


「雪村さんって若いし大丈夫ですよー! ユウさんと同期って聞きましたけど、おいくつなんですか?」

「僕は高専で入ったから26歳だね。和佳子さん……だったよね? 君からしてみたら十分おじさんでしょう?」


 全然そんなことない。ユウさんに比べれば少し落ち着いて見えるけど、クマちゃんよりも若く見えるのにしっかりしていて誠実な大人の男性という印象を受けた。


「実はね、僕は半年くらい前に妻から離婚を言い渡されてね。落ち込んでいる僕を励まそうと永谷くんが誘ってくれたんだよ。永谷くんも離婚したと聞いたけど、まさかこんなに若い人と付き合ってるとは思わなかったなー。でもいいね、本当に仲が良くて憧れるよ」


 その視線は和佳子が二人に向ける表情にすごく似ていて、一気に親近感が込み上がった。


「分かります! 私もあの二人には憧れていて、推しです! めちゃくちゃ二人の幸せを祈ってるんです! 私もシウとユウさんみたいな恋人になりたいなーって憧れてて!」


 つい、興奮が勝り前乗り気味に語ってしまった。目の前には驚いて戸惑っている雪村の顔。しまったと後悔した時にはもう遅かった。


「す、すみません……。つい、同志を見つけたと興奮してしまって」

「いえいえ、気にしないで下さい。その、和佳子さんのような可愛い方に近付かれて、少し焦っただけなので」


 可愛い……? いやいや、シウならともかく自分なんて長らく異性に言われていない言葉だ。だが、たとえお世辞だとしても嬉しい。

 ホクホクと嬉しい気持ちで合いの手をしていると、ポンっと肩を叩かれ雪村が距離を縮めてきた。


「あの、こんなことを聞くのは失礼かもしれないですが……和佳子さんはお付き合いしてる方はいるんですか? もしいなかったら連絡先を交換してもらえないかなと思って」


 耳元で囁かれた低いハスキーボイスと甘い言葉。あまりにも予想外な出来事に和佳子は顔を真っ赤にして両手で顔を隠した。

 嘘だ、だって大抵の男の人はシウばかり好きになって、自分になんて見向きもしないのに!

 そうか、シウにはユウさんがいるから仕方なく私に声を掛けたんだ! そうに違いない!


「あ……もし嫌なら無理には言わないけど」


 申し訳なさそうに謝る雪村に不慣れさが見えて、勇気を出して聞いたのだろうと察した。

 違う、嬉しかったんだけど、その……!


「じ、実は私も先日彼氏と別れたばかりで……ちょっと男性不信になっていたんです。だからその、急にこんなことを言われて驚いたっていうか、その」

「そうだったんだ。和佳子さんには申し訳ないけど、僕はついてたんだね。そんなタイミングで和佳子さんと出逢えて」


 その瞬間に見た屈託のない笑顔に、ギュンと胸を鷲掴みされた。ちょっと嘘でしょ? こんな運命の出会い、現実にあるの⁉︎

 そんな雪村に押されながら、和佳子は連絡先を交換を始めていた。



 そんな二人の様子を遠くからユウとシウは微笑ましく眺めていた。


「まさか雪村さんが和佳子さんにアピールするなんて思わなかったな」

「でも和佳子、満更でもなさそう。雪村さんを呼んでくれてありがとうね」

「本当は神崎さんに紹介するつもりで呼んだんだけど……神崎さんは用事で来れなかったし、和佳子さんは彼氏と別れた後だったし、これも何かの縁だね。雪村は奥さんが韓流アイドルにハマり過ぎたのが原因で離婚した感じだから問題があるわけでもないし、いい奴だから僕もオススメだよ」


 こうして和佳子はクマちゃんと別れて数日後、新しい恋を見つけて幸せな日々を送ることとなった。



 一方、和佳子に振られたクマちゃんは、クリスマスという大事な日に浮気相手へ一連の状況を報告していた。


「え、彼女と別れたから付き合ってほしい? 冗談はやめてよ! 誰がアンタみたいなデブと付き合うの? クマってよりもブタじゃん。私がアンタに送っていたのはあくまで営業のメッセージ。本気にされても困るんだけど?」


 そう、クマちゃんの浮気相手は惚れて貢いでいたホステスだった。浮気がバレないようにゲームのチャットでやりとりをして誤魔化していたのだ。

 クリスマスもお店に来てほしいとせがまれたので和佳子との約束を破って優先したというのに……結果は散々だった。


「そんな、俺は彼女とも別れて萌ちゃんを選んだのに! そんなの酷くないか⁉︎」

「そんなのアンタの勝手じゃん! 大体そんなにホステスにハマる方がおかしいんだって。客じゃなきゃアンタみたいなワガママ男と付き合うわけないでしょ?」


 言いたい放題言われて傷心したクマちゃんだったが、気付いた時には全て手遅れだった。

 愛しの和佳子にメッセージを送っても、送信できませんでしたの文面しか表示されなかった。


「あぁ……ワカちゃん、俺が悪かった。俺が悪かったからもう一度やり直してくれー!」


 クマちゃんの悲痛の叫びが、聖夜の夜に無情に響き渡った。


 ・・・・・・・・・・★


「そして和佳子ちゃんは、短大卒業してから雪村和佳子になったのだが、それはまた別のお話」


 最初はちょっと書き足して終わろうと思ったけど、一話書いてみました。和佳子ちゃん、雪村さんお幸せに!

 そして神崎さん、どんまい!

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