第110話 ・・・★ 涙のクリスマス 【和佳子視点】
・・・★ 和佳子side...
クリスマスイブ当日。その日、水城と胡桃さん、瀬戸と寿々さん、シウ、ユウ、和佳子のメンバーで集まり、和気藹々と楽しい時間を過ごしていた。
白髭サンタの瀬戸と水城、ワンピースサンタの和佳子と胡桃とシウ、トナカイ姿のユウ。生憎妊婦である寿々はパーティー帽子を被って、各々は思う存分カラオケを満喫していた。
きっと皆がいなかったら、クマちゃんのいない寂しさに耐えられなくて傷心に浸りながら引きこもって過ごしていたかもしれない。
ありがとうと心の中で感謝を伝えながら、いつも以上にはしゃぐように騒いだ。
ちなみにクマちゃんとのことは、まだシウにしか話していなかった。それと同時にもう一つのことも告白していた。それは親友のシウに言うのはとても気が引けたことだったけど、気付いた以上は黙ってもいられなかった。
だけど和佳子の悩みをシウはちゃんと受け止め、そして決着をつけることを許してくれたのだ。
和佳子はタイミングを見計らってユウの隣に座った。そして強く息を吸って服の裾を引っ張って声をかけた。
「———ん? どうした、和佳子さん」
「あ……あの、その、ユウさん。少しだけお時間を頂けませんか?」
何だと首を傾げたユウは、無意識にシウの反応を伺うように目線を向けていた。
二人の様子に気付いたシウもコクンと頷いて微笑んだ。
「シウにはもう話してあるので、少しだけ……お願いします」
項垂れながら頼む和佳子にユウも「わかった」と了承してカラオケルームから出ていった。そして数分後に和佳子も部屋を出て、待ってくれていたユウに声を掛けた。
他の部屋から漏れる音をバックに、澄ました顔をしていたトナカイは優しい表情を向けて話してくれた。
「どうした、和佳子ちゃん。もしかして彼氏さんとのことで悩みでもあった?」
くいっと上がった口角。ズルいほどカッコ良くて整った目と眉。その優しげな視線を向けられるだけで全身に力が籠って動けなくなる。
でもせっかくシウがくれたチャンスだ———ちゃんと伝えないと。
「あ、あの……実は先日、彼氏とは別れちゃったんです」
「え、あ……そうだったんだ。ごめん、気付かなくて」
「いえ、彼には私から連絡して、ちゃんと話をして終わらせたのでスッキリしまいた。ユウさんも彼のことを庇ってくれたのに、ごめんなさい」
だが暗い話題を振られ、ユウも気まずそうに顔を顰めていた。
ごめんなさい……ただでさえ言いづらい話題を振ったのに、もっと気まずい話を今からします。
和佳子は真っ直ぐとユウを見つめて、素直な気持ちをぶつけた。
「ユウさん、私……実はずっとユウさんに憧れていました。カッコいいなって思ってました」
和佳子の告白に、ユウは一瞬真顔になったが、すぐに顔を顰めて何て答えようか迷っている仕草を見せてきた。
「ゴメン、僕は———和佳子ちゃんの気持ちは嬉しいけど、シウのことが大事だから」
「あ、はい! それは分かってます! むしろそうであって欲しいです! その、私はシウとユウさんの関係が理想で……憧れなんです! 互いのことを大事にしていて、想うだけで幸せな顔をして。だからお願いなんです」
「お願い……?」
和佳子は泣きたい気持ちを押し殺して、強く頷いた。
「ユウさんはシウを……ずっと大事にして下さい。私は幸せそうなシウを見て、シウみたいになりたいって憧れたんです。だからそんなシウを幸せにしてくれたユウさんには、ずっとシウのことを想っていて欲しくて!」
自分達が叶えられなかった恋を、代わりに叶えて欲しい。ずっと仲睦まじい関係を続けてほしい。ずっと、シウの幸せを願う優しいユウさんのままでいて欲しい。
「ユウさんとシウがずっと仲良くしていられたら、私も運命を信じられる気がするんです。だから、お願いだから……」
スカートの裾を強く掴んで、ギュッと目を瞑った。前を見るのが怖い———……!
そしてユウも、こんな告白をされるのは初めてで戸惑った。だが怯えるように強張っている和佳子に気付き、約束に対して深く頷いた。
「分かった、約束するよ。シウのことを大事にする。シウを……ずっと守るよ」
好きな人の誓いに、グッと涙を堪えて熱くなる瞼を押さえ込んだ。いいんだ、これでいいんだ。和佳子は清々しい失恋にニッと笑ってお礼を言った。
「スッキリしたー……! ずっとモヤモヤしてて、気持ち悪かったんですよねー! ユウさんもゴメンナサイ! 突然困らせてしまって」
「困ってないんてないよ、大丈夫」
そんなユウの優しさにまたしても泣きそうになる。今度、誰かを好きになる時にはユウさんのような優しい人を好きになろう。シウのように愛される子になりたいし、愛する人になりたい。
「ゴメンナサイ、私はお手洗いに行ってから戻りますので、ユウさんは先に戻ってて下さい!」
「……うん、分かった。くれぐれも気をつけてね」
目尻に光る涙が滲んでいたが、あえて気付かないふりをしてユウは先に部屋へと戻った。
・・・・・・・・・・★
「大丈夫、和佳子ならきっと素敵な彼氏が出来る。だってあんな素敵な子なんだもん。できない方がおかしいよ」
長年の恋に終止符を打った和佳子さん。
そう、実際ユウとシウの関係が羨ましいと言いつつ、本音はユウにも気持ちがあり……。前に進む為にあえて失恋しに行きました。
———でも、最初和佳子さんの話を書く時、こんな話をかくつもりじゃなかったのになー……? 不思議です。
次回の更新は6時45分です。
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