第109話 ・・・★ あの日、私は気付いてしまった 【和佳子視点】

 ・・・★ 和佳子side...


 皮肉なことに、あの日から和佳子は彼氏のことなんて然程気にならなくなってしまった。あんなに大好きだったクマちゃん。毎日欠かさず電話をして、その日の話を教え合っていたのに……。


 でも気付いてしまった。最近の電話は決まって和佳子から、話すことも和佳子ばかり。

 もう冷え切っていたことは分かっていた。いくら親公認の仲とはいえ、本人達の気持ちがなければ永遠に続くわけじゃなかった。


 惰性と情で続いていた関係。

 でも楽に流されて、気付かないふりして……大事な事から目を逸らして付き合っていた。

 最初に離れたのはクマちゃんの方。きっと彼はゲームと称して他の女の人と連絡を取っていたんだ。だってずっと肌身離さず持って、仕切りに通知を気にしていた。でも『をしているんだから仕方ない』って言い聞かせていた。


 でもその事実に気付いた今、然程悲しくない自分に嫌気がさした。

 目を閉じると、瞼の裏に浮かぶのはシウとその彼氏、ユウの顔———……。あの日の幸せそうな二人を見て、和佳子は自分の状況を嘆いた。たとえクマちゃんが反省したとしても、もう前のようにクマちゃんに笑いかけることはできない。


 和佳子は身体を起こして、グッと涙を拭って決意をした。まずは決着をつけよう。クマちゃんと別れよう。


 あの日からずっと未読スルーで放置していたメッセージを開いて『今日、大事な話がある』と打って空に投げた。見えない文字は電波に乗って好きだった人の元へと届けられた。

 そして数分後に届いた『分かった。今日、ワカちゃんの部屋に行くよ』と、何かを察したような言葉が返ってきた。


 もう後には戻れない。終わりが近づく事に不安もあったが、踏み出せた一歩に後悔はなかった。




 そして夜、久しぶりに和佳子の部屋を訪れたクマちゃんは、スマホをしまって神妙な顔で入ってきた。ただでさえ小さい目が腫れて細くなって———思わず和佳子の胸を締め付けた。


「何、どうしたの? そんな顔して」


 これからの暗い展開を知っているはずなのに、逆に明るい声で話しかけてバシっと背中を叩いた。いつもだったらビクともしないクマちゃんの身体がよろめいて、それが悲しくなった。


「ワカちゃん、俺、ずっとゴメン。ワカちゃんを傷つけてたよね」


 あ、そっか……と、和佳子はハッとした。和佳子は奥歯を噛み締めて「うん」と覚悟を決めた。


 いいよ、クマちゃん。私は覚悟ができたから———……。


「本当はクリスマスの出張っていうのは嘘なんだ。本当はゲームのイベントがあって、それに行きたくて……」

「———え? ゲームのイベント?」

「うん、どうしてもレアキャラをゲットしたくて、ちょっと東京まで行こうかと思っていて」


 てっきり浮気をしているって言われると思っていた和佳子は拍子抜けした。それならそうと言ってくれたら良かったのに……。


「だって和佳子ちゃんはゲームに没頭している俺を嫌がっていたじゃないか! だから気を使って」

「それは気を使ってるんじゃないよ! それなら一緒に行こうって言ってくれたら良かったのにー」


 浮気じゃないと分かり、安堵したのも束の間……歯切れの悪いクマちゃんの態度からのが伝わってきた。


 ———あ、ゲームは建前だ。この人はもう、他の人との道を歩んでいる。


「もしかして、一人じゃ……ない?」

「違う! その人はゲームのフレンドさんで、そんな!」

「どんな人? ねぇ、それじゃその人とのやりとりを見せてよ」


 最初は言い訳ばかり連ねて渋っていたクマちゃんだが、最終的には奪う形でメッセージを確認することになった。

 案の定の甘い言葉。卑猥な言葉、愛の言葉……。

 胸が抉られるような痛みを覚えたが、大丈夫———……。


「で、でも俺が一番好きなのはワカちゃんで! この人は単なる遊びだから!」

「でもクマちゃんは……その人と一緒に過ごすことを決めたんでしょ? 私が一緒に過ごしたいって言っていたクリスマスを。それだけで———十分な理由になるよ」


 うまく息ができなくて苦しくなるけど、大丈夫。ふぅ、ふぅ、ふぅ……と小さな息を繰り返して、和佳子は真っ直ぐに大好きだった顔を見つめて言った。


「クマちゃん、別れよう。私はもうクマちゃんと一緒に笑える自信がない」


 好きはもう少なくなっていた。愛はもう残っていないかもしれない。情は沢山あるけれど、それ以上に悲しいとか惨めとかマイナスが多すぎる。クマちゃんとは一緒にいる方が苦しい。


「でもワカちゃん、俺はワカちゃんのことが好きで!」


 伸ばされた手を叩いて身体を突き放した。

 バイバイ、大好きだった人。


 その後、クマちゃんは浮気相手とは縁を切る、ゲームも辞めるからやり直してくれと縋ってきたが、和佳子は拒否続けた。


「ワカちゃん! きっと俺以上に君を好きになる男はいないよ? もう二度と裏切らないから! もう傷つけないから!」


 最後には両親に手伝ってもらいながら元カレを家から出して、力尽きたように和佳子は座り込んだ。


 恋の終わりは本当にツラい。

 けど、憧れの二人に近づく為には、必要な痛みなんだ。和佳子は妥協の恋に終止符を打って、前へと進み出した。


 ・・・・・・・・・・★


ZEPYERさん「和佳子さん、今日はお腹いっぱいになるほど豚まんを奢りますから……思う存分食べて下さいね」

和佳子「ZEPYERさん……っ! うぅ……あのね、私……誰にも相談できなくて、でもちゃんとケジメをつけないとって思って」

ZEPYERさん「大丈夫、ちゃんと分かってるから。今はただ沢山泣いたらいいよ」

和佳子「うっ、うぅ……私、どうしたら良かったのかな……? もしかして気付かないふりをして、許していればよかったのかな?」

ZEPYERさん「ううん、私の知ってる和佳子さんはそんな中途半端な選択をする人だとは思わないから。しっかりと前に進むと決めた和佳子さんを私は応援しますよ」


 和佳子ちゃんと言えばZEPYERさんと思って、ゲスト出演で……。

 もう和佳子ちゃんの彼氏、クマさん……!

 こんなキャラになるとは思ってもいなかったですT-T

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