第108話 ・・・★ 気付きたくなかった感情 【和佳子視点】

 ・・・★ 和佳子side...


 思い掛けない形でクリスマスパーティーを開催することになった和佳子達だったが、内心楽しみだった。何より仲良くなったシウと一緒に過ごせるのも嬉しいし、彼氏や家族以外で過ごすのが久しぶりで、学生らしいイベントに胸が騒ぎ踊った。


「クリスマスっぽいイベントとかしたいね。プレゼント交換とか?」

「うんうん! 予算は一千円にしようよ、あまり高いと困っちゃうし」


 さっきまであんなに暗かった心が晴れやかになったが、それと同時にシウがとても羨ましくなった。こんな優しい彼氏が傍にいてくれるなんて———ちょっとズルい。

 特にクマちゃんの気持ちが自分から離れているって気付いてからは、余計に眩しく見えて切なくなった。


「ねぇ、ユウ。ここのカラオケ店コスプレも貸し出しているんだって。どうせならコスプレパーティーしたい」

「そんな店があんの? いかがわしい店じゃないよな?」

「和佳子もいるのに、そんなお店を選ばないよ。ユウと二人きりなら分からないけど」

「ったく、シウは……。ねぇ、和佳子さんが良かったら僕の職場の人も呼びたいんだけどいいかな? 水城っていう奴なんだけど瀬戸くんとも面識がある人間だし、面白い奴だから楽しくなると思うんだ」


 突然話題を振られた和佳子は、動揺しながら「は、はい!」と返事をした。その後もずっとドキドキドキドキと動悸が激しい状態が続いた。

 やっぱりイケメンは心臓に悪い。私にはクマちゃんくらいのビジュアルが安心する。


 でも、こんなカッコいいのにシウに一途で優しいなんて羨ましい。この二人、この部屋でイチャイチャしたりしてるのかな?

 そう考えると、急に色んなものが生々しく見えてソワソワ落ち着かなくなった。シウもユウさんもどんな表情で感じ合うんだろう……。


「後は瀬戸くんや寿々さんにも声をかけようか? 寿々さんは予定日控えているから気をつけないといけないかもしれないけど。和佳子さんは他に呼びたい人とかいない?」

「わ、私は大丈夫です! 瀬戸とかシウとかいてくれたらそれで」

「そっか、他に要望があったら遠慮なく言ってね。このパーティーは和佳子さんのためにするんだから」


 優しく微笑むユウの顔を見て、再び動悸が激しくなる。ダメだ、うまくユウさんの顔が見れない。

 こんな挙動不審な行動をしていると、シウに疑われるかもしれないのに。気をつけようと思えば思うほど気になって、体温が一気に上昇した。


「ねぇ、和佳子。もう時間も遅いし今日は泊まっていけば? 部屋は空いているし、ご両親に連絡さえ入れればウチは構わないよ」

「え、でも……!」


 こんな夜遅くに突撃訪問をして今更かもしれないけれど、泊まるとなると話は別だ。

 だがユウも同じ様に泊まっていいよと勧めてくれたので、和佳子も押されるように頷いてしまった。


「そうとなれば、今日は私が和佳子と一緒に寝るから、ユウは私の部屋で寝てね?」

「はいはい、全然構わないよ。和佳子さんも自分の家だと思ってゆっくりと寛いでね」


 シウは新品の下着や真新しいパジャマまでおろしてくれて、至り尽せりな身分となった。恐縮しつつも和佳子は先にシャワーを借りて身を清め出した。


「………いいな、シウは。ユウさんみたいな人に愛されて」


 人の彼氏と比べるのはお門違いだけれども、自分よりも遥かに大事にしてもらっているシウに軽い嫉妬を覚えた。付き合いたての頃ですら、あんなに大事に扱ってもらっていただろうかと惨めさを覚えた。


 和佳子達も場合は家庭教師と生徒という珍しい立場だったのも影響しているけど、常にクマちゃんがリードしていて、その後をついていく付き合い方だった。頼りになった一面もあるが、結局はクマちゃんに主導権があって和佳子が何を言っても無駄な一面もあり、子供のように駄々を捏ねてやっと聞いてもらえる始末だった。


 そして数年経ってクマちゃんのリードもなくなって、素っ気なくなって……和佳子が色々しても響かないことが増えてきて。

 それが当たり前だと思っていたけど、やっぱり違うって気付かされて。


 胸が痛くなった———寂しくなった。


「いいなぁ……シウは。私もあんなふうに愛されたいな」


 頭から浴びたシャワーの水滴が涙と共に流れ落ちる。悲しみも全部、紛れてなくなってしまえばいいのに。


 排水溝へと流れていく水を見ながら、ギュッと二の腕を掴んで苦しさに耐えた。



 そしてしばらくして、服を着替え終えた和佳子はシウと代わろうと脱衣所から顔を覗かせてリビングの方へと視線を向けた。

 するとシウとユウさんが食器を洗いながら談笑している姿が見えてきた。


 ただ食器を洗っているだけなのに、楽しそうに笑って。再びチクっと刺さる痛みに気付かされた。


 戻れるのだろうか? 自分も、あんなふうに。大好きなクマちゃんと、あんな甘い雰囲気を作れるだろうか?


『無理だ、私はもうクマちゃんに興味を持たれてない』


 他人の振り見て我が身を直すではないが、シウとユウさんの姿を見て、自分は幸せじゃないことを再確認させられた。

 愛されたいと思ってしまった。自分も、シウみたいに……あんなふうに大事に思われたい。


「クマちゃんのバカァ……! 大っ嫌い、大っ嫌い……っ!」


 幸せな二人の陰で、和佳子はしゃがみ込んで身を縮めながら一人涙を流していた。


・・・・・・・・・・・・★


「気付かない方が幸せだったのか、気付いてよかったかは分からないけど……でも、このままじゃダメだと気付いたから」


 次回の更新は6時45分になります。

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