第105話 ・・・★ 水城のサプライズ 【水城視点】

 ・・・★ 水城side...


「あー、どうしようかなークリスマス。どうしたらいいか分からねぇー」


 この度、イトコの荒牧 胡桃と結婚した水城だったが、奥さんと過ごす初めてのクリスマスに頭を悩ませていた。

 実は胡桃は再婚で、前の旦那から軽いD Vを受けており、少々男性恐怖症の節があったのだ。

 数ヶ月一緒に暮らした今、普段のコミュニケションは問題ないが、少し距離を縮めると警戒するように身体をビクッと震わせて怯えた仕草を見せる。

 その様子を見る度に前の旦那への怒りが湧いてくるが、そんなことよりも彼女の傷を癒すのが最優先だと水城は色々と試していた。


「ねぇ胡桃ちゃん。今度一緒に猫カフェ行かない? めちゃくちゃ癒されるらしいよ?」

「……うん、行こっか」


 ———んー、反応イマイチ。

 胡桃ちゃん、動物そんなに好きじゃないのかな?


「あのさー、今度一緒にネズミーランド行こうか! 腰が砕けるほど絶叫系に乗ろうよ!」

「……ごめんね。絶叫は苦手だし、まだ人混みは少し」


 ———しょぼーん。

 なんだろう、この暖簾のれん相撲。少しでも胡桃ちゃんを元気つけたいと思おうけど手応えがない。

 数ヶ月前までは部屋に引き篭もって誰とも会話もせずに過ごしてきた彼女が、ここまで回復しただけでも大きな前進なのだが、欲張りな水城は胡桃にたくさん笑って欲しかった。


 そしてあわよくば沢山イチャイチャしたいし、デートもしたい。永谷先輩の惚気話を聞くたびに「このクソリア充め、爆発しろ」と心の中で何度醜い嫉妬を繰り返したことだろうか。


「ってことで、胡桃ちゃんを元気づけよう大作戦! 寿々ちゃんも瀬戸くんも脳みそ振り絞って名案をプリーズ」


 急遽、寿々と瀬戸を呼び出して作戦会議を開催していた。流石の寿々も引き攣り笑いで瀬戸に「ゴメンね」と謝っていた。


「ねぇ、廉兄ちゃん……もしかしてお姉ちゃんと上手くいってないの?」

「失礼だな、寿々ちゃん! 俺達は決して険悪ではない! 険悪ではないけど……寿々ちゃん、俺はどうしたらいいんだろう?」


 実は胡桃と籍を入れたのはいいが、まだキスもちゃんとできていない。一度試してみたが、身体をガチガチにして強張った彼女を見ていたら、とても次の段階になんていけなかった。


 本当に自分らしくないと思った。

 思ったことは即実行、相手の都合よりも自分優先。そんな自分が、そんなさー……。


「だってさー、せっかく結婚したのにこんなのじゃ、ただの同居人だよ。もっと楽しいが詰まっているはずなのに、今のままじゃ胡桃ちゃん幸せになれないじゃん」


 唇を尖らせて拗ねる水城を見て、二人はやれやれと笑みを溢した。


「あのね、廉兄ちゃん。お姉ちゃんはお兄ちゃんのことが嫌いとか、怖いとかじゃないんだと思うよ。私もお姉ちゃんの気持ち……分かる気がするから」

「え、それって何?」


 寿々は余裕のある笑みを浮かべながら、ゆっくりとお腹を撫でた。


「それは自己嫌悪。幸せになるのが怖いんだよ。あれだけ周りに迷惑をかけた自分が幸せになってもいいのかなって」

「えー、何それ。そんな自己暗示のせいで暗くなって迷惑かけてたら本末転倒じゃん?」


 やっぱり人とは違う反応を示す水城は面白いと、寿々は声に出して笑った。


「大丈夫だよ、お兄ちゃん。そんなふうに言えるお兄ちゃんだから、ここまでお姉ちゃんを引っ張ってこれたんだから」

「何それ? でもさー、それから先がいけないから悩んでいるんだけど?」

「それはお兄ちゃんが気を使いだしたせいだよ。今まで通り、お兄ちゃんはお兄ちゃんらしく突っ走ればいいんだよ」


 そう言って寿々は瀬戸を見た。

 きっと後先考えない真っ直ぐな優しさの方が嬉しい人もいるんだ。


「うん、そうですよ! 水城さんの良さはその奇抜な発想と行動力ですから!」

「えー、瀬戸くんに言われたくないなー。あ、瀬戸くんの場合は奇抜ではなく馬鹿正直か! ある意味ウチの永谷先輩と同じ融通の行かないバカ真面目!」

「そんなユウさんと一緒だなんて、めちゃくちゃ光栄っす!」


 えー、今のは完全にバカにしたんだけどなー?

 こんな皮肉が効かないのが瀬戸くんの良いところであり、悪いところなのだろう。


 しかし、突っ走るか……。

 寿々と瀬戸くんに相談してモヤモヤは残ったものの、やるべきことは見えてきた気がする。


「———うし、それじゃーたまには永谷先輩を見習って、尽くして尽くして尽くしてまくって、強引にいっちゃいますか!」


 丁度、女の子には花束が有効ですって相談に乗ったところだ。癪だけれども自分も便乗して両手いっぱいの花束をプレゼントしよう。

 あとはケーキを買って、たまにはのーんびり過ごすのも良いだろう。


「へへー、胡桃ちゃん喜んでもらえるから?」


 愛する彼女が待つ家に向かって、リズミカルな足取りで水城は帰路を進んだ。



 ・・・・・・・・・・★


「ちなにみ先輩が40本の薔薇の花束なら、俺は100本です!」

「———おい、水城。いちいち僕に張り合うのはやめてくれ」


 次回の更新は6時45分を予定しています。

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