第98話 拒んでいた理由
色々と本音を暴露しあった三人は、清々しい反面、思わぬダメージを受けてギリギリの精神状態だった。
「それにしても、ユウくんにしろシウにしろ……もっと色々恋愛をすればよかったのに」
「そんなの必要ないよ。私にとってユウが理想でユウがいればよかったんだから」
いつも思うがシウの言葉は真っ直ぐで偽りがないから、嬉しい反面恥ずかしくなる。
そしてこの中では一番恋愛経験が豊富であるイコさんも観念したように頷いた。
「ユウくんも厄介な子に好かれちゃったわね。こんな子だけど末長くよろしくね?」
「厄介なんてとんでもないよ。僕はいつもシウに助けてもらってばかりだから。むしろ僕には勿体無いくらい素敵な子を……産んでくれてありがとうって伝えたいよ」
このバカップルは……揃いも揃って歯の浮くようなことばかり並べてと、イコは引き攣りながら笑みを浮かべていた。
「———この際だから最後にもう一つ暴露させて? 今だから言うけど……正直、私が家に帰らなくなっていた理由はアンタ達にも原因があるのよ?」
棘のある敵意を含んだ言葉にユウもシウも息を飲んだが、イコは宥めるように言葉を続けた。
「そんな畏まる必要はないから安心して? 違うの、あなた達が悪いとかじゃなくて、これは私の勝手な嫉妬。だって私とシウは血の繋がった
思わぬ言葉に「え……?」と間抜けな声が漏れた。それほど予想もしていなかった言葉だった。まさか二人のためと尽くしていたことが、イコさんを苦しめるハメになっていたなんて盲点だった。
「だってユウくんの家事、完璧過ぎなのよ! 奥さんとしての価値観ないし娘もユウくんばかりだし、面白くなかったわ本当に。ズボラな私への当て付けって当時は思ってたくらいだしね?」
「違う、僕はそんなつもりじゃなくて」
ユウの言葉を遮り、皆まで言うなと首を振った。
「わかってるわよ、それくらい。だから言えなかったのよ。ごめんね、心が狭くて。私はユウくんと一緒にいると居場所がない気がして虚しかったの。だから私を必要としてくれた守岡を頼ってしまったの」
ズキっと痛む胸を痛みに耐えながら、かつての初恋の人の恋路話に耳を傾けた。良くも悪くもユウとイコは
「お母さんにとって守岡さんは大事な人だったんだね」
「そうね、少なくても私には。彼にとってどうなのかは分からないけど」
ユウも守岡という人間が未だにどんな人間かイマイチ掴めずにいたが、少なくても今はイコさんの存在を大事に思っているに違いない。だからユウに直接頼みを申し出たり、頭を下げてきたのだから。
「———お母さん、大丈夫?」
シウの言葉に笑って返し、気丈に振る舞い始めた。無理に笑うその表情が一層胸を苦しめる。
「シウもごめんね。ずっと母親らしいことをしてあげられなくて……。そしてあなたの好きな人をずっと縛り付けることになって。ツラかったでしょう?」
結果的に長い年月、好きな人が他の女性を思い続ける光景を間近で見せつけられてきたのだ。そんな言葉で片付けられないほど苦しめられ続けてきたけど、 シウは首を横に振った。
「大丈夫、結果的に変な虫がユウに近付くことがなかったから。むしろ相手がお母さんで良かったと思ってるよ」
意味深な笑みを浮かべて、シウはユウを見つめてきた。確かにイコさんが相手だったからこそ、ユウは無闇に関係を迫ることをしなかったし、拒まれても仕方ないと諦めることができたのだ。
そして恋愛初心者のユウを見事に落として、シウは今の婚約者という立場を手に入れたのだ。
「そういえば、さっきも話していたけど、守岡は本当にシウの花嫁姿を見たがっているのかな? 一応写真は撮ったけど」
ユウとシウ、二人の晴れ姿が映った写真をイコに渡して届けてもらうように伝えた。だがどうもしっくりこない。こんな高額なお金を使ってまで果たしたい夢だとは思えなかったのだ。
「イコさん、明日の夕方……少し時間をもらいたいんだけどいいかな?」
こうしてユウは先ほどの計画をイコにも話して協力を得ることとなった。
・・・・・・・・・・★
「でもお母さん、ユウに嫉妬してたって言う割には努力もしてなかったよね? 実際は楽だと思っていたんじゃ———」
「シウ、あんたも主婦になったらわかるわ……! だからそれ以上は言わないで」
嫉妬もしていたけど、実際は助かると思っていたでしょう。むしろ家事に関しては有り難かったはずですw
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