第96話 衣装合わせ
その日、イコさんも一緒にドレスの試着へと来たのだが———……あまりの眼福にいつ死んでも悔いはないとユウは一人悶えていた。
元々色白でくっきりした顔立ちのシウだが、ウェデングドレスをまとった彼女は童話や映画のプリンセス其の者の美しさを誇っている。細かい刺繍を施されたビスチェタイプの正統派ドレス。大きく開いた背中が綺麗で息をするのを忘れてしまうほどだ。
「すいません、これも写真撮ってもいいですか?」
「えぇ、それは構いませんが……新婦様もお疲れみたいですので程々にされた方がよろしいのでは?」
あまりの可愛さに色んな角度から撮影しては回りの人をドン引きさせていた。だが仕方ない……シウが可愛過ぎるのがいけないんだ。
「ユウくん、スタッフの人も困ってるから程々にね?」
「くそ、できることなら全部撮りたいのに」
「———ユウくんってこんな男だったんだね。もっと大人でドライだと思っていたのに」
イコさんは苦笑を溢していたが、別に今更どう思われても気にしなかった。イコさんといる時は少しでも良い旦那を演じようと必死だっただけだ。
「ってかさ、本当に守岡ってシウの花嫁姿を見たかったのかな。いくら娘だと思い続けていたからって、血の繋がりがないって分かったんだろう? しかも一緒に暮らしていたわけじゃないし……」
シウが試着室で着替えをしている間、周りに聞こえないように訪ねた。そのことについてはイコさんも同じように疑問に思っていたらしく、困った表情で答え始めた。
「ほら、守岡は子供を欲しがっていたけど出来なかったからじゃないの? きっと憧れが高じて」
「守岡が子供を欲しがっていた理由は会社の後継の為だろう? 会社から追い出された今、どうしてもとは思えないんだけど」
ズバズバと切り捨てるユウに、イコも言葉を詰まらせた。困らせたくて聞いたわけじゃなかったのに悪いことをしてる気分になると、ユウも頭をかきながら小さく溜息を吐いた。
それよりも多数の白いドレスに囲まれたイコさんを見て、皮肉な光景だと眺めていた。15歳でシウを孕ませて出産したイコさん。相手が分からずウェディングドレスを纏うことなく、娘の晴れ姿を眺める羽目になったのだ。
しかも当時の自分と然程変わらない年齢の娘をだ。
「新郎の方もタキシードを試着して頂けませんか? ドレスが決まり次第、メイクも済ませて写真撮影を行いたいと思いますので」
「分かりました。それじゃイコさん、僕も行ってくるからイコさんはシウと一緒にドレスを決めていてくれる?」
「え、いいの? 私が決めても。ユウくんの希望はないの?」
「僕が選んだら永遠に決まらない気がするから。強いて言うなら背中が出ていてスカートがAラインのデザインがいいかな? あとはイコさんに任せるよ」
「そう、分かったわ。ありがとう、ユウくん」
感謝を述べてシウのところへと向かったイコを見届けて、ユウは脱力するように座り込んだ。
本音を言うなら自分が選びたかった。けどシウはユウが選んだドレスを着ると予測し、あえて同席せずに気に入ったドレスを選んでもらうことにしたのだ。写真だけとはいえシウが主役のフォトウェディングだ。
「だが可愛かったな……。巻き髪にしてアップにしてる姿とか、めちゃくちゃ萌えた」
あの
「あのう、新郎様? タキシードはこちらの白でよろしかったですか?」
「え、あ、はい! 大丈夫です」
「オプション付けますと、こちらのグレーに変更することもできますが?」
正直、自分の衣装はどうでもいいのだが? シウはどっちが好きだろうと考えながら鏡の前で着替えてみた。着比べればグレーの方が引き締まって見えるが、どうしよう。
「———ちなみにオプションって、いくらするんですか?」
「プラス三万くらいでしょうか? 如何なさいますか?」
正直シウのドレスは好きなものを着せてあげたいのでそれなりの金額になることを覚悟していたが、まさか自分まで高額になるとは思っていなかった。本番ならともかく、前撮り感覚の写真撮影で支払うには高額すぎる。
だが、きっとシウに選ばせたらグレーを選ぶだろう。彼女はそういう人だ。
「………グレーでお願いいたします」
「かしこまりました! ありがとうございまーす♡」
見事にオプションを勝ち取り上機嫌になったスタッフに、ユウはもう一点依頼を出した。
「すいません、ここのドレスって
「
思った以上に容態が悪化してきたため、写真だけ撮って守岡に見せるつもりだったが、レンタルができるなら直接見せてあげたい。ユウは病院に連絡を入れて主治医の先生に相談をしてみた。
・・・・・・・・・★
「許可は頂けてありがとうございました。それじゃ、よろしくお願い致します」
さて、次回はゆっくりとお話ししましょうか、イコさん。
次回の更新は6時45分です。
続きが気になる方はフォローをお願い致します。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます