第95話 勘違いをしていたんだ 【R−15指定】
目を覚ました時、忘れていた記憶を鮮明に思い出した気がした。
「そうか、イコさんは———元から僕を家族にしようとはしていなかったんだ」
それはユウが一人を拒んでいたから、ユウを守る為に側にいることを選んだ。でも将来のあるユウの足枷にはなりたくなくて、結婚の道を選ばず……距離を取りつつ生活をしてくれたんだ。
最初はそれを自覚していたかもしれないけれど、共に生活していくにつれ境界線が曖昧になって家族から夫婦のようになり、そして本当の家族になろうと婚姻届にサインをし合ったんだ。
でもいざ書いたのはいいが、臆病風に吹かれたイコさんは未提出のまま隠し続けていた。
その理由は想い人である守岡の存在と、性行為ができない事実。そしてイコとユウの間に恋が芽生えていなかったことだろう。
そう、ユウ自身もイコに憧れを抱いていた時期はあったが、それが恋だったのかと聞かれたら分からない。そしてイコも年下で弟のように思っていたユウを異性として見てはいなかったのだろう。
仲の良かった幼馴染同士、助け合い支え合ってきただけなのだ。
そんなスタートでも良かった。少しずつ本物になれればいいと思っていたけれど、イコは踏み切れなかったのだ。
結果としてイコさんの優しさのおかげで、ユウはシウと一緒になることができて、何の障害もなく堂々と恋人同士でいられるのだ。
ユウは隣で寝息を立てて眠っているシウの額にキスをして、そのまま抱き締めた。温かい体温に涙が溢れそうだ。
「ん、ユウ……? おはよう、こんな朝から甘えてどうしたの?」
「うん、少し懐かしい夢を見たんだ。シウはさ、いつから僕を好きでいてくれたん?」
突然の質問にシウは顔を真っ赤に染めて、気まずそうに視線を伏せた。
「私は最初からずっと好きだったよ? それこそユウがお母さんのことを好きだった時から」
イコさんを好きだった時か。それもこれも全部勘違いだったと伝えたら、シウは何て言うだろう? 喜ぶのかな、それとも怒るだろうか? きっと後者だろう。今までの苦労は何だったのだとへそを曲げかねない。
「シウ、一緒に映画を見よう」
「え、今から……?」
今日は平日、早目に目が覚めたとはいえ二人とも支度をしなければならない。だがユウはそんなことお構いなしに、シウを抱き寄せて唇を塞いだ。明るくなりつつある視界を暗くしようと毛布を頭から被り合った。
密着する身体が次第に汗ばむ。戸惑う彼女の頭を撫でながら、ゆっくりとほぐし合った。自分の勝手な欲望に付き合わせて申し訳ない。
「ぁ……、んンッ、だめ……私ばかり」
「———大丈夫、僕の方は必要ないから」
そう言って手を掴んで分からせてあげた。暗闇の中でも真っ赤になって戸惑っているの様子が分かり、本当に可愛いと愛しさが増した。
熱を帯びた吐息と身体。指が二、三本挿入るようになった頃、マクラの下に隠していた避妊具に手を伸ばして用意を始めた。
「シウ、ずっと好きだって言ってくれていたのに、ごめん」
「え……? どうしたの、急に」
突然の謝罪にシウも戸惑うように顔を顰めた。こんなタイミングで切り出す話題じゃなかったよなとユウも苦笑を浮かべながら腰を添えた。
「僕はずっとシウに支えてもらってたんだなって思い出したんだ」
「……変なユウ。何を今更」
「本当だね、何もかも今更だよな」
指を絡ませて、全身で交わりながら互いにぶつけ合うように縋るように快感を分かち合った。
家族が欲しかったユウ。でも本当の家族ではなく偽りの家族ごっこを過ごしていた三人だったが、そんな関係性の中でもシウはずっと家族のように接してくれていた。食事を共にして挨拶を交わして、一緒の時間を過ごした。
ただ、ユウが描いていた家族とシウの思っていた家族像は異なっていたかもしれないけれど。だからこれからはシウと同じ家族像を描いて、一緒に幸せになっていかないといけないのだ。
「シウ、愛してる。ずっと……ずっとそばにいて」
「うん、ずっとそばにいるよ。私、ユウのことずっと好きだから」
・・・・・・・・・・★
『私はさ、ちゃんと恋をしたからいいんだよ? それが良い恋かは別としてね。でもユウくんはさ……まだしてないでしょう? 勿体無いよ。ちゃんと恋をして、好きな人と人生を歩んだ方がいい』
婚姻届を書いた辺りからユウはイコを意識して……でもイコは一歩を踏み出せず。次に不妊治療の辺りでイコが踏み出したけど、その時にはユウが拒まれたり、吐かれたりで引き気味になって……。
夫婦になりきれなかった二人。
そして結局、この二人の恋が一緒に芽生えることはなかったんでしょうね。
本当はシウも言いたいことは沢山あったけど、あの時の二人を見て入り込める隙間がないと思って折れたんでしょう。それから素っ気なくなっていくシウ。
……結ばれて良かった。ユウもちゃんと恋が出来て良かった。
次回は6時45分更新です。
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