第92話 ★・・・ クリスマスプレゼント

「ねぇ、ユウ兄ちゃん。お母さんへのプレゼントを考えているんだけど、手伝ってもらえないかな?」


 大学のレポートをしようとデスクに向かっていると、紙粘土を持ったシウが部屋を訪れた。

 正直、今日中に終わらせようと思っていたけど、シウの頼みなら仕方ない。ユウはノートパソコンを閉じてシウの計画を尋ねた。

 どうやら紙粘土でネックレスやブレスレットを作ろうと考えているようだ。


「お母さんってアクセサリーが好きだから。喜んでもらえるかなって思って」


 星やハートなど、様々な形を作成して絵の具とニスを塗って光沢を出して仕上げるようだ。手作り感があっていいプレゼントだと思う。


「それなら形を作る前に絵の具を混ぜたらいいよ。パステル色になって可愛いと思う」

「本当だ……! お母さん、ピンクとか好きだから喜ぶかも!」


 無邪気に頬に絵の具を付けながら、屈託な笑顔を見せるシウを見て、自然と笑みが溢れた。


「シウは何が欲しい? 僕もプレゼントするよ?」

「え、それじゃ指輪! お母さんが買ってた雑誌に載っていたキラキラした指輪!」


 ———え? イコさんが愛読している雑誌掲載の指輪? それってガチなヤツじゃ?


「これこれ! ねぇ、これってコンヤクユビワっていうのでしょ? シウはこれがいい!」

「えっとー……それはシウがもっと大きくなってから、大事な人に買ってもらいなよ」

「ヤーダー! シウはユウに買ってもらいたいの!」


 いつの間に持ってきていたのか、希望の指輪が載っていた雑誌を見せつけられ、ユウは色んな意味で驚愕していた。


 ———メーカー希望価格、65万……税抜⁉︎ 


 婚約指輪ってこんなにするのか……どうりで結婚しない若者が増えているわけだ。金がいくらあっても足りないじゃないか。


「お兄ちゃんはバイトしてお金稼いでいるんでしょ? 指輪の一つや二つ、たくさん買えるでしょ?」

「うん……一年働いてやっと一つ買えるかな?」


 しかし指輪が欲しいなんて、やっぱりシウも女子なんだなと思いながら眺めていた。

 プレゼントか……。


 ユウは先日買っていたプレゼントを眺め、ため息を吐いていた。買ったはいいもの、渡すタイミングが見つからず焦りを覚えていた。

 だがいつまでもウジウジしていても仕方ない。


「シウ、今日プレゼントを作るのを手伝ったんだら、今度は僕の協力をしてくれないか?」

「え、うん! 何でも任せて!」


 ユウは机から一つの小さな箱を取り出し、シウに託した。何が入っているんだろうと興味津々に箱を振るシウを慌てて止めて、贈る相手を伝えた。


「これを僕の母さんに渡してくれないかな? 親孝行ってわけじゃないけど……甲斐性なしの息子からのプレゼントだって」

「カイショーなし?」

「それは言わなくてもいいよ。ユウ兄ちゃんからのクリスマスプレゼントって渡してくれ」


 「任せて!」と意気込んだシウサンタは嬉しそうに階段を駆けて任された仕事に勤しんでいた。


 直接渡すのは気恥ずかしかったけれど、普段お世話になっているお礼だ。たまには夫婦水入らずで楽しんできてほしい。

 すると役目を果たしたシウが母親の真紀を引き連れて戻ってきた。


「渡してきたよ、ユウ兄ちゃん!」

「ユウ、これ……私とお父さんに?」


 えぇー……? 直接渡すのが恥ずかしいから任せたのに、本人と対面したら意味がないじゃないかとショックを受けていると、真紀はホロホロと涙を溢しながら喜び出した。


「ありがとう、ユウ。まさかこんなプレゼントをもらえると思ってなくて……嬉しかったわ」


 ———恥ずかしいな。だからシウに頼んだのに。

 ユウはしゃがみ込んで、真紀の視線に合わせて感謝を伝えた。


「母さん、いつもありがとう。普段は恥ずかしくて言えないけど、いつも感謝してるよ。これホテルのクリスマスディナー付きの宿泊券なんだ。父さんと一緒に楽しんできてよ」

「ユウは? 一緒に行かないの?」

「この年になって親と一緒にクリスマスを祝うのも気恥ずかしいから、二人で行ってきて」

「そう、少し残念だけどありがとう。楽しんでくるわね」



 それが、ユウと真紀が交わした最期の会話だった。もし、自分も一緒に行っていれば……そもそも渡すがなければ、二人は今も自分の隣で笑っていてくれたのだろうと考えてしまう。


 過去はもう変えられない———……。

 二人はもう、現実のユウに笑いかけてくれることはないのだ。


 ・・・・・・・・★


「僕の行動が二人を———……」


 次回の更新は6時45分になります。

 展開が分かっているだけ、胸が苦しいです……。

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