第三部 複雑な心境だけれども、これも乗り越えなければならない壁
第85話 特に何もない日常って、ある意味嵐の前の静けさ
温泉から帰ってきて数ヶ月後。
あれから順調に愛を育んでいるユウとシウは初々しくも幸せな日常を過ごしていた。
ユウの職場のシェアハウス企画も無事に収録が終わり、神崎さんの胃痛の悩みもやっと片付いたようだった。
「本っっっ当に誰だ、こんな面倒な企画を作ったのは! こんなイベント二度とやらないぞ!」
水城もユウも聞こえない振りをしていたが、その後人気が出てワンホームハウスの目玉企画となってしまった。そして事あるごとに神崎は引っ張りだこの名物社員になってしまったのだ。
———あのサバサバ女子の焦り具合が最高!
———また神崎さんの泣き顔が見たいです! むしろ弄りたい!
———姉御、俺が嫁に貰ってやるwww
と、何故かメインのモモちぃを食う勢いで人気が出てしまったのだ。こうして神崎本人の意思とは裏腹に出世街道真っしぐらに歩み出した。
「あーぁ、残念でしたねー永谷先輩。もし俺達が出演していれば俺達が有名になったかもしれないのに」
本音なのか冗談なのか分からない水城の発言を軽く流しながら、ユウは別のことを考えていた。
「んー、先輩ー。可愛い後輩の話をスルーするとか酷くないッスか?」
「うん……いいんじゃない?」
「何がいいんすか? 全く、そんな適当な男はモテないっすよ? 一体何があったんッスか?」
不機嫌な態度を露わにした水城にも、変わらずうわの空で返事を繰り返すユウ。流石の水城も堪忍袋の緒を切らし、ユウの目の前でドンと机を叩いて威嚇した。
「どうしたんッスか? ったくー……何か問題があったんすか?」
「え、いや……。ちょっと内輪のことで少し」
「内輪って、何すか? もしかしてシウちゃんと何かあったんすか?」
他人の不幸は蜜の味とニヤニヤしながら距離を詰めてきた水城を押し返しながら、ユウは面倒臭そうに顔を顰めた。
違う、ユウとシウのことではない。今悩んでいるのはシウの身内のことだ。
いつかこんな日が来るかもしれないと覚悟はしていた。だが自分が思っているよりも早い展開に、胸が痛んで哀愁に浸りたくなったのだ。
誤解を与えたくないので先に伝えるが、決して未練があるわけではない。今のユウにとって大事なのはシウであり、シウだけを愛している。
とはいえ、かつて……家族のように過ごしていた人の結婚報告はやはり複雑だった。
「イコさんと守岡さんの入籍……か」
今度、正式に籍を入れることになったので二人だけで写真を取って、ささやかなお祝いをすると連絡をもらったのだ。そこにユウとシウにも参加して欲しいと言われたのだが……。
そもそもどんな顔をして会いに行けばいいんだ?
『今は関係ないとはいえ、数ヶ月前まで嫁だと想って大事にしていた女性と思いっきり顔面を殴った男だぞ? イコさんはともかく、守岡さんには二度と会うことないと思っていたのに』
———というよりも、あんな複数の女性と関係をもっていた男と結婚するなんて、イコさんの神経を疑ってしまう。
「なぁ、水城……シウの母親から入籍するから祝ってほしいって言われたんだけど水城ならどうする?」
「え、何すかそれ。シウちゃんの母親って、先輩の元奥さんじゃないッスか? うわー、浮気された妻とその間男を祝福しないといけないとか、先輩どれだけ精神抉られるんすか?」
水城の言い分はもっともだ。ユウ自身も地獄過ぎる状況を祝う気なんてなれなかった。
「とはいえ、参加しないわけにはいかないんだよね」
「まぁ、そうっすね。何たってシウちゃんの親ですからね」
正式ではないとはいえ、元奧さんが義理の母親になる男ってどれだけいるのだろうか?
「先輩もスゴいっすよねー。まじで美人親子丼食ったんすか?」
イコさんとはエッチも何もしてないけどね……。だが自分の名誉を守るために何も言わずにスルーして外へ飲み物を買いに出た。
・・・・★
「お母さんの結婚式……」
ネタが思い浮かばず最終章です💦 歪な関係に終止符です。明日も6時45分更新です。
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