第80話 ちゃんと隅々まで洗ってね?
部屋に通されたユウ達は、豪華な内装にひたすら歓喜の声をあげていた。高い天井に大きな窓。そこから見えるのは綺麗に調和された日本庭園。静かに流れる時間が演出されて、どれだけでも眺めていられる。
入ってすぐに置かれたモダンなソファーと触りごちの良さそうなラグ。そしてその奥には大きなダブルのベッドが存在感満載にアピールしていた。
「あ、ねぇ、ユウ! 内風呂だよ? 大きくて綺麗だね」
奥の寝室も窓の向こうに設置された内風呂は、余裕で二人で入れる大きさだった。思わず生唾を飲んでしまう。
きっとシウのことだから一緒に入ろうと強請ってくるに違いない。いや、でもそれは流石に———……。
「大浴場もあるんだね。色んな種類の温泉があるんだ。夕食の準備が終わるまで入ってきていい?」
「ん、あぁ、勿論だよ」
あれ? てっきり一緒に入ろうとか強請ってくると思ったが、いきなり肩透かしをくらいユウもぎこちない返事をしてしまった。
「浴衣もあるんだ。ねぇ、ユウも着てきてね? 楽しみにしてるから。あと……ちゃんと隅々まで洗ってきてね?」
いや、そんなシウに言われなくても毎日隅々まで洗っているけれど? もしかして洗い忘れでオヤジ臭いとか? もしかして気にしてた?
それは嫌だ! シウに嫌われないように清潔感にだけは気を遣っていたつもりだったのに、予想もしてないユウも全力で身体を洗った。足先から爪の間まで念入りに。
「くそ、せっかくの温泉が全然癒されない……! けど臭いなんて思われたくない!」
普段、全力で愛情表現をしてくれるシウに甘えきっていた。そもそも自分達は11歳離れているのだ。同年代の感覚でいたら嫌われるのも無理はない。
朝起きた枕の匂いを嗅いで「ユウの枕、クサい」なんて思われていたのなら……!
「———やっぱり今日、頑張ろう」
シウの気持ちが離れないように、今日こそ彼女を抱いて気持ちを固めよう。
最初は18歳になるまで待とうと思っていたが、親友の和佳子ちゃん、そして瀬戸くん荒牧さんの話を聞いていたら、シウだけ我慢を強いるのは酷な気がしてきたのだ。
もちろん彼女の意思と、イコさんの許可は必要だし、何よりも万が一シウが妊娠してしまった時のフォローなども大事だろう。
「しかし避妊具ってどのタイミングでつけるんだろう? 最初から? それともある程度前戯をしてから……?」
でも気持ちが盛り上がって、いざという時に上手く着けられなかったら雰囲気ぶち壊しだろう。
その点は何度も練習したから大丈夫だとは思うが、何が起こるか分からないのが現実だ。
「………くそ、本当に頼りないな僕は」
シウのことを大事にしたいのに、結局自分のメンツのことばかり考えてしまう。失敗したらどうしようとか、そもそもシウを満足させてあげられるのかとか……。
シウはそんな子じゃないのに。そんなことで嫌いになるような子じゃないのに。
一通りの自己嫌悪に陥った後、ユウは浴衣を纏って大浴場を出た。シウはまだ出ていないようだ。
大浴場の入り口に設置していた瓶のコーヒー牛乳とフルーツ牛乳を見て、思わず一本購入してグイッと飲み干した。美味い。
「ズルい、ユウだけ。私も飲みたい」
不意に耳元で囁かれた声に慌てて振り返ると、そこには湯上がりのシウが立っていた。桃色に染まった頬に濡れた艶やかな髪。そして初めて見た浴衣姿。
「可愛い……」
気付けば溢れていた言葉に、ユウもシウも顔を真っ赤にして照れた。何を言ってるんだろう、恥ずかしい。
「あ、ありがとう。ユウもスゴく似合ってるよ、浴衣姿」
口元を手で隠しながら、上目で覗き込むシウに胸を締め付けられた。こんなの可愛すぎる……!
「あ、シウも飲む? フルーツ牛乳とコーヒー牛乳どっちがいい?」
「うーん、もう部屋にご飯が運ばれてるんでしょ? ご飯前だから我慢するよ」
「そ、そっか」
何だか今日の自分って空回ってないかと悔やみながらユウは部屋へと戻っていった。いや、気のせいだ。これから挽回すれば良いんだ。
そして部屋に入ると、豪華な懐石料理が並んでいた。
ぷるぷるで弾圧なエビ、ウニ、そして新鮮は刺身に霜降りの牛肉、色とりどりの職人技の光る前菜に黄金出汁の鍋。
漂う美味しそうな香りに思わず涎が溢れそうだ。
「美味しそう! ねぇ、ユウ早く食べよう?」
「そうだね、さてと……」
キンキンに冷えたグラスにシウがビールを注いてくれた。トクトクトクと注がれたが、入れすぎたせいで泡がグラスから溢れた。ユウは慌てて口を付けたが、間に合わず少し濡れしてしまった。
「ごめん、ユウ。大丈夫?」
「大丈夫だよ、少し濡れただけだから」
そう謝りながら近くにあったタオルを取って足元を拭いてくれたが、太ももの辺りに置かれたシウの手と、屈んだ時み見えた胸元の谷間と肌に、不覚ながら雄の反応をしてしまった。慌てて顔を背けたが、大きく反応した下半身を見て、シウも恥じらうように顔を覆った。
「……ユウのエッチ」
仕方ないだろう、これでも男なんだから。
再び自己嫌悪に陥りながら反論しようとした瞬間、シウの顔が近付いてきて、そのまま唇を塞がれた。柔らかい感触が凹凸を確かめ合うように求めて動いた。
「ん、シウ……、ご飯が冷めるよ」
「……っ、少しだけ」
互いの背中に腕を回して、跨るシウを抱き締めて。二人の旅行は始まった。
・・・・・・・・・★
(天の声)「お二人さん! なべ、鍋の火が沸騰してまっせ?」
せっかくの豪華な料理、ちゃんと食ってから盛れー……!
次回の更新も6時45分を予定しております。
気になる方はフォローなどをよろしくお願い致します。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます