第78話 失ったもの、得たもの
「永谷先輩、俺この度結婚することになりました!」
出社するなり満面の笑みで報告してきた水城に、ユウも神崎も「何言ってるんだ、この馬鹿は」と蔑んだ視線を送った。
「水城、お前も知っていると思うが、結婚というのは一人では出来ないんだぞ?」
「そうだよ。アニメのキャラとかバーチャルキャラとも出来ないんだよ?」
「失敬な! ちゃんと生身の人間ッス! いや、俺もね……自分でも驚いてます。こう、彼女と再会した瞬間、ビビッと来て———これぞ運命って思ったんです」
随分と酔いしれているが、実際はこんなものかも知れないなと思いながら水城の話に耳を傾けていた。ところで肝心のお相手はどんな人なのだろう?
「あぁ、イトコの胡桃ちゃんって言います。バツイチなんですけど、幸薄の美少女って感じで綺麗な子なんですよ」
「え、イトコってまさか……」
「そ、荒牧寿々ちゃんのお姉さんです。式とかは上げないでフォト結婚式で済ませるんですけど、先輩方はお祝儀弾ませて下さいねー」
水城の報告を受けて神崎さんは頭を抱えて「先を越されたー」と唸っていたが、ユウはそれどころではなかった。飲み物を買ってくると展示場を出た水城を追いかけて、詳しい話を聞き出した。
「なぁ、水城。もしかしてその人って」
「あー、そうっす。子宮全摘して旦那に捨てられたお姉ちゃんッスよ? あと寿々ちゃんの子供が産まれたら俺達の養子として迎える予定でもありますので」
自分の知らないところで着々と進んでいた話にユウは絶句していた。そんな簡単に決めて良いのか? 水城は……後悔しないのか?
「えぇー、それを先輩が言うんですか? 俺は逆にしないと後悔すると思いました。知らなかったとはいえ、初恋のお姉さんが苦しい目に遭っていて、何もできないほうがツラくないっすか?」
状況が違うとはいえ、今の水城の立場はイコとユウに重なって見えた。確かに自分も水城と同じ行動を選ぶかも知れない。
「それに瀬戸くんと寿々ちゃんも納得してくれたッスよ? まぁ、寿々ちゃんに至ってはお姉ちゃんが元気になってくれれば、ってのもあったみたいですし。瀬戸くんはー……『いつか一人前の男になって、ちゃんと経済能力がついたら迎えに来ます』って言ってたし。いやー彼の場合は経済能力だけの問題じゃないけど、まぁ……子供が生きていれば、何とかなるもんですよ?」
自分の時よりも遥かにしっかりとしたビジョンを持った水城に、ユウは何も言うまいと見守る決意をした。
「あ、そうそう。瀬戸くん達が改めてお礼に伺いたいって言ってたんで、今度ご飯に行きませんか?」
「うん、分かった。その時はお祝いに奢ってやるよ」
「よっしゃー! 俺も胡桃ちゃん連れて挨拶に行くんで、よろしくお願いします」
こうして未来に繋がった子供の成長を願いながら、ユウ達は職場へと向かった。
「って待て。水城が結婚ってことは……どうなるんだ?」
「え、何がですか?」
「シェアハウスの件だよ。水城、参加できるのか?」
しばらく考えてから、実に清々しい笑顔で「無理っすね!」と断りを申し出た。
「俺の奥さん、精神的に参ってる子なので、できるだけ側にいてあげたいんですよねー。そもそも先輩も大丈夫なんですか? シウちゃん怒ってたんじゃないですか?」
「そ、そりゃ、ご立腹だったけど……」
「ほらねー! ってことで神崎さん。企画そのものが破綻してるんすよ? 社員入れないで配信者だけでしてもらった方がいいんじゃないですか? じゃないと、あまりのパワハラに社員から退職願が殺到しかねないっすよ?」
このご時世だ、水城の言うことも最もかもしれない。しかしあんなに歓喜の声を上げていたくせに、薄情な奴だとも嘲笑も浮かべた。
「仕方ないな……モモちぃの所属事務所に頼むか。ったく、誰だこんな面倒な企画を上げたのは……」
こうして一連の騒動は終焉を迎えたのであった。
・・・・・・・★
「ってことで、ご祝儀はコチラの口座にお願いいたします! 先輩の気持ちをたくさん振り込んで頂いてよろしいっすよ?」
「もちろん僕の時にもそれ相応に包んでくれるんだよね?」
「———ごく一般的な金額で大丈夫でーす」
これにて瀬戸荒牧編終了となりました。
いやー……正直、こんな終わり方になるとは思ってもいなかったでした。
けど妥当だとも思いました。いくら小説の中とはいえ中絶だけはしたくなかったので……。
けど水城には本当に、此奴が主人公なのではと思うほどですw
ちなみに瀬戸荒牧はこのまま付き合い続けて、瀬戸が社会人二年目になったくらいで結婚して、新たな子供が出来ます。
今回できた最初の子供は、そのまま胡桃と水城の子として育てられることになります。
ちなみに子供は男の子でしたw
水城、光源氏計画は実行されずw
けど、幸せだから満足でしょう、きっと。
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