第75話 ★・・・ それからの未来 【寿々side】

 ・・・★ 寿々side...


 妊娠したら終わりだと思っていたけど、本当に大変だったのはそれからだった。身体の倦怠感、常に襲ってくる眠気。そして込み上がる嘔吐感……下腹部は張るように痛いし、もう最悪だった。


 こんな状況を親に見られたら絶対に怪しまれる。せめて……悪阻つわりが落ち着くまでは家には帰れない。私はネット喫茶やカラオケ店を渡り過ごしていた。

 あの日、根岸と身体を重ねたことがバレた為、瀬戸とは呆気なく別れてしまった。しかも「瀬戸の彼女から声をかけてきたんだ。瀬戸に送ってもらったから遊ぼうって誘われたんだ」と主張する根岸の言い分が通り、最低最悪な悪女となって別れたのだ。


『———仕方ない。そもそもそれを狙って根岸くんと寝たんだから』


 それよりも気持ち悪い。食べ物の匂いや、色んな年代の体臭。様々な匂いが鼻腔と胃を刺激する。

 何で私ばかりこんな目に遭うんだろう? 違う、私が選んだ結果だ。でも、こんな———……こんなに辛いなんて思いもしなかった。


「大成……会いたいよォ……」


 貴方の無邪気な笑顔を見たい。全部、大丈夫だよと笑い飛ばしてほしい。会いたいよ……。


 そして眠気に勝てなかった私は意識を失うようにネット喫茶のリクライニングソファーで眠りについた。




「———ず、寿々⁉︎ 大丈夫?」

「……え、大成? 何でここに?」


 目を覚ますと瀬戸と店員らしい人が心配するように覗き込んでいた。何で? 何が起きたの?


「いや、それは俺のセリフだよ。急に電話がかかって来たと思ったら苦しそうな声だけが聞こえてきてさ。たまたま寿々の電話を店員の人が気付いて代わってくれたから良かったけど……! 心配したんだぞ⁉︎」


 そう言って瀬戸が抱き締めて来た。悪阻のせいで汗の匂いで吐き気がしたけど、それよりも瀬戸の温もりが嬉しかった。ずっとずっと欲しかった優しさだ。


「大成、私……、どうしよう……っ! もう、一人じゃどうしようもない」

「どうした? 何が起きたんだよ」


 一人で抱えきれなくなった私は、言ってはいけないと思いつつ、瀬戸に告白してしまった。実は妊娠しているのだと———……。


「でも堕したくないの。ごめんなさい、ワガママで」

「堕したくないって、え? あ、そうか……寿々、カトリック系の学校に通ってるもんな。クリスチャンだから仕方ないか」


 何やら瀬戸は一人で勘違いをしているようだが、都合が良かったので敢えて訂正はしなかった。だってやっと妊娠したのだ。もう、きっと瀬戸とよりを戻ることはできないだろうから……。私は産みたい。


「寿々、お腹の子は俺の子? それとも根岸の子?」


 その瀬戸の言葉に、私は現実に引き戻された。そうだ、瀬戸は知らないんだ。瀬戸のゴムにだけ細工をした事実を。

 この妊娠は私が勝手に仕組んだことだ。彼に迷惑をかけるわけにはいかない。けど、今だけは———最後にはちゃんと解放してあげるから、お願い……。


「多分、私は大成の子供だと思うけど、自信はない」

「マジかー……! 俺、父親になるのかー……!」


 そうやって頭を抱える瀬戸を見て、やっぱり自分の選択は間違っていたのだと思い知った。やっぱり優しい彼の重荷になるわけにはいかない。

 でも中絶できない時期まででいいから、私のそばにいて? その後は悪女を演じて嫌われてあげるから。


「大成、私はこの子を産みたい。お願い、私を助けて欲しいの」


 こうして二人はユウの家に居候して、色んな選択を強いられた。分かっている、本当は堕ろした方がいいことも。


 けど今更後戻りは出来ない。

 もしかしたら無事に子供を産んだら、姉が正気を取り戻してくれるかもしれない。そしたら姉と二人で子供を育てるのだ……。

 仮に姉に拒絶されたとしても、私は一人で育てる。だってこの子は瀬戸好きな人の子なのだから。


 ・・・・・・・・・★


「だから、お願い。私からこの子を奪わないで。堕ろせなんて軽々しく言わないで」


 見えなかった側面が見えると、胸が苦しいです。そして次第に訪れる寿々の変化。胸が苦しい……。


 実はもう一本! 今度は21時05分更新です!

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