第74話 ★・・・ 瀬戸という彼氏と……【寿々side】

 ・・・★ 寿々side...


「俺さ、寿々と付き合うまで……何もかも適当だったんだよね」


 瀬戸の家で、下着姿のまま肌を合わせなが戯れ合っていた。彼は胸を触りながら、甘えるような声で話を続けていた。


「これまでの女の子って、すげぇ束縛がスゴくて面倒臭いって思うことが多かったんだけど、寿々は年上だからかな? そんなワガママも言わないから一緒にいて楽なんだよね」


 そうなのかな? 塾をサボって遅くまで付き合わせたり、色々と無理を言っている気がするけど、彼にとっては大したことじゃないのだろうか?

 週に何日も一緒に過ごすことも増えてきたし、瀬戸の家に泊まることも多くなった。十分ワガママなのに、瀬戸はそれはワガママとは捉えていなかったようだ。


「だって俺も寿々と一緒にいたいんだもん。これからもずっと……大好きだよ」

「———私も大成が好きだよ」


 産むなら瀬戸の子がいい。貴方がいい……。私達は何度もキスを交わし合い、交尾を重ね、そしてとうとう……あの日が訪れた。


 その日は瀬戸の友達に紹介したいということで、大人数で遊ぶことになった。男女合わせて10人くらいでボーリングやカラオケなどをして遊んで、疲れたけど楽しかった。


「ふぅー……久々に身体動かしたよ。寿々も疲れただろう?」

「大丈夫、大成こそ……たくさん投げていたけど腕は大丈夫?」

「うん、俺はオールで投げたこともあるし! あー……今度はさ、二人でも行きたいな! ってか、寿々と一緒にたくさん遊びたい」


 私との未来を楽しみにしてくれている彼氏に胸を痛めた。こんな優しい人を私は騙そうとしている。私には、その未来を一緒に見る資格はない。


 瀬戸は心配だと家まで送ってくれたのだが、近付くにつれて父の怒鳴り声が聞こえ出した。

 嫌だ、彼には私の家の現状を知られたくない。寿々は足を止めて、瀬戸を引き止めた。


「大成、もうここでいいよ? 送ってくれてありがとうね」

「そっか、了解! 本当は寿々の両親にも挨拶をしたいんだけど……」

「———うん、ありがとうね。けど今日はもう遅いし、また日を改めて」


 そうして、何度も振り返って手を振る瀬戸を見送りながら、私は家に入るのを躊躇っていた。

 嫌だな、この家に帰るの……帰りたくない。


 何度もドアノブに手を掛けては躊躇ちゅうちょした。ドア越しでも聞こえてくる怒鳴り声が身を竦めさせる。


「あれー、まだ帰らないの? 瀬戸の彼女さん」


 聞こえるはずのない声に、私は警戒するように振り返った。そこにいたのは瀬戸の友達の根岸くんだった。


「何でここにいるの……?」

「いやー、瀬戸に用事があって来たんだけど、見失っちゃって。そしたら彼女さんが帰りたくなさそうにしてたから。もしかして親と仲が悪いの? 家に帰りたくないなら俺と一緒にもう少し遊ばない?」


 普段なら絶対に断るのに……この時は心が弱っていた。帰りたくない、もうこんな家に戻りたくない。


「瀬戸にも声をかけて、三人で遊べばいいよ」


 ———けど結局、根岸が瀬戸を呼ぶことはなく、私は騙されるようにホテルに連れ込まれ、そのまま抱かれてしまった。


 自業自得だ。

 家に帰りたくないと望んだせいだ。

 瀬戸のことを騙して、妊娠しようとしたせいだ。

 全部、全部……私が悪い。


「瀬戸がさ、めちゃくちゃ荒牧さんのことを惚気るんだよ。でも実際に見て、マジでエロいね、そそられるよ」


 マグロのように動かない私に、根岸は猿のように腰を振り続けた。


 でも、そうか。瀬戸だけの子供だと、親権だったり色々と厄介なことになるもんね。でも私は———どうせ産むなら、瀬戸の子供がいい。


「根岸くん、セックスするなら絶対にゴムをつけて。そうじゃないと強姦されたって警察に訴えるよ?」

「えー……ホテルまで来ておいてそれはねぇだろ? まぁ、いいけどよー……」


 これできっと、どっちの子供か分からない。

 瀬戸の避妊具には穴を開けて細工をしているけど……きっと彼は気付いていないから。


 それに私は浮気をする最低な女。

 こんな女なら優しい瀬戸も愛想を尽かすだろう。きっと信じられないと蔑んで、愛想をつかすに違いない。それがいい、その方がいい。だって彼は、私にはもったいないほど優しい人だから。


「……うぅ……っ、うっ……!」


 声を押し殺しながら泣く私に、根岸も顔を歪めて面倒くさそうに顔を顰めた。


「げー、今になって罪悪感かよ。萎えるなー。こんなことで泣くくらいなら最初から浮気するなよ」


 こうして瀬戸との未来も捨ててしまった私を待っていたのは、陽性の検査結果だった。全部、全部……思惑通りに進んだのに、何でだろう。


「———疲れた。もう、何もかもどうでもいいや」


 使用済みの検査薬を片手に、私はベッドに横になった。



 ・・・・・・・・・★


「望み通りになったのに、何で私はこんなに胸が苦しいのだろう……」


 寿々は、選んでいけない選択を選び、そして破滅へと進んで行ったんでしょう。胸が苦しいです。


 今日はまだ続きます!

 次回は17時05分です!

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