第71話 いやだ……!

「シェアハウス? え、ユウが?」

「業務命令らしいよ。とは言ってもマンションとシェアハウスの行ったり来たりになると思うけど」


 前はシウと二人きりという状況を避けるためにシェアハウスを検討したのだが、保護者であるイコさんからの正式な許可も出たし、婚約者として付き合っているので然程気にしなくなったのだが。案の定この話をした瞬間、シウの顔がどんどんと不機嫌になっていった。


「何で? そんな必要ないよ。そんなに気を遣わないといけないの?」

「いや、そう言うことじゃなくて……これは会社からの指示で」

「ユウが他の女の子と住むなんて、絶対にイヤ。しかもモモちぃって———この子でしょ? 略奪指南系配信者だよ?」


 略奪指南系とは何だ? ユウは渡されたスマホで動画を見た。そこにはモモちぃというピンクの髪の女の子が男の人に跨って誘惑している動画が映し出されていた。


「この動画は【真面目系男子、どこまで攻めたら落ちるのか】だって。最低なことをして人気取りしている配信者だよ? ユウなんて格好の餌食になるだけだよ?」

「餌食って……そもそも僕は好きでもない人に迫られても何とも思わないし」

「説得力ないよ? だって私が攻めた時、簡単にキスされてたし」


 いや、あの時は……!

 ユウはシウとの初めてのキスを思い出し、自己嫌悪に陥った。リビングでの行為を見られた、二度と思い出したくない黒歴史だ。

 しかし今になって思えば初恋の人イコにそっくりなシウはユウにとって好みのタイプだったので、そんな彼女に迫られ拒むのは容易ではなかったのだ。


「と、とにかく今はシウという彼女がいるのに、他の女性に靡いたりしないよ?」

「ユウにその気がなくても、モモちぃから迫ってきた時にちゃんと拒めるの? ユウって優柔不断そうなんだもん」


 いや、それは大丈夫だ。何度か告白されたこともあったが、きちんと拒んでいるし、そもそも女性とそんな雰囲気にならないように色々と気を遣っている。


「だからどうか信じて欲しいんだけど」

「………わかった、ユウがそこまで言うのなら」


 とりあえず納得してくれたのは良かった。だが、問題はその後だった。ユウは苦虫を噛んだような表情でシウに報告をした。


「それでさ……一つだけシウに謝らないといけないことがあるんだけど」

「え、何……?」

「———シウがシェアハウスに来るのは全然いいんだけど、僕と付き合ってることだけは、絶対にバレないようにお願いしたいんだ」

「………え?」


 案の定、シウは激怒し「何で? 理由は? 誰がそんなことを言ったの?」と質問攻めにあってしまった。


「やっぱり僕のような大人が高校生と付き合っているっていうのは世間の印象がよくないからだって。クレームになりそうなことは控えてくれって神崎さんから指示が出たんだ」

「神崎さんって、ユウの上司の?」

「そう、一応心配してくれた上での指示なんだ」

「……それならユウじゃない人が出ればいいのに」


 それも最もな意見だ。

 だが顔面偏差値の高い社員をとモモちぃ側から要望があり、ユウと水城が指名されたと聞かされたのだ。


「彼女がいないって言うんじゃないから! ちゃんと大事にしている婚約者がいるとはいうから!」


 それでも不服そうな表情を浮かべていたが、仕方ないと断念してくれたようだった。


「でも私、に会いに行くよ? それならいいんでしょ?」


 グレーゾーンだが仕方ない。渋々とはいえ了承してくれたシウに感謝して、ユウは胸を撫で下ろした。


 だが、それにしてもなんか不安だ。改めてモモちぃの動画を見ていたが『どうやって草食系男子を落とせばいいのか』とか『恋人のいる人でも簡単! こうすれば男は簡単に落ちる!』などあまり好感は持てない動画ばかり公開されていた。


「水城といい、モモちぃといい……うちの会社、大丈夫か? こんなの炎上して潰れるのがオチだろう?」


 最先が思いやられると頭を抱えながら、ユウはスマホ画面を消した。



 ・・・・・・・・・★


「ちなみに、通常ならこんな馬鹿げた企画を行う会社はないと思いますので、温かい目でご覧ください……」


 炎上必須な問題ばかりの企画……ユウの会社はまともな会社なのか不安になりますね。

 ユウ、今からでも遅くないから転職をするのだ。


※ 略奪系から略奪指南系に変更しました。

女の子に「こうしたら好きな男の子に好きになってもらえるよ」というメイクやボディメイキング、ファッション指南、それからアプローチの仕方などを配信している子です。まぁ、過激な動画もあるので、炎上系ではあると思いますが💦


 次回は12時05分に更新します。忘れがちだった第二部の問題解決編が始まります。



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