第67話 まさかの再会

 一通りの家事を済ませて買い物に出ようとした時、思いがけない人物からの連絡にユウは心臓が止まりそうになった。

 何度も消そうと思ったけど、結局消すことができなかった番号。


「……イコさん?」


 今更何の用だろう? まさか今になってシウを引き取りたいと思い直したとか?

 だが、シウにとってイコさんが保護者には変わりはないので、恐る恐る通話を取ることにした。


『あ、ユウくん……? 久しぶり』

「イコさん———何? 急に連絡してくるなんて珍しいね」


 前と変わらない、どこか気の抜けたイコさんの声。だが油断はできないとユウは警戒するような声色で会話を続けた。


『ごめんね、急に。実はさっきシウの学校から連絡を受けて病院に来たの』


 病院……?

 まさかの言葉にユウの脳裏に嫌な予感が過った。まさかシウの身に何かあったのか?


『検査結果も異常はなかったから今日のうちに帰れるんだけど……ユウくんに迎えを頼めないかなと思って』

「それは構わないけど……」

『ありがとう。ショックを受けるといけないから先に伝えておくけど、シウは顔に傷を負って3針くらい縫ったの。相当気にしてるみたいだから、安心させてあげて?』


 そんなこと、イコさんに言われなくても気にしないのに。今朝送った時はあんなに笑顔だったのに、シウのことを考えただけで居ても立っても居られなくなった。

 通話を終えたユウは急いで病院へ急いだ。



 病室へと向かうと、廊下で待っていた人の姿が目についた。ボブカットに白いシャツとタイトな黒いスラックス。相変わらずのワークスタイルの服装にユウは苦笑を溢した。


「ユウくん。久しぶり」

「久しぶり、元気そうだね」

「ユウくんもね。けど何か……雰囲気が変わった? ちょっと男らしくなったみたい」


 それはお互い様だ。

 イコさんこそ肩の力がいい具合に抜けて、雰囲気が柔らかくなった気がする。やつれた様子も拭えないが、それすら色気に変えてしまうから恐ろしい人だ。

 とうの昔に気持ちなんて消えたと思っていたのに、やはり本人を前にすると動揺を隠せない。


 ———いや、どちらかというと、娘のシウに手を出したことへの罪悪感の方が強い。イコさんの顔を直視できない……!


「あのね、シウ……根岸くんって同級生の子に乱暴されそうになって、それが原因で顔に傷を負ったみたい」

「———え? 根岸くんが?」


 あんなに根岸に対して警戒していたのに、何故? あり得ない状況にユウも苛立ちを露わにした。


「彼の親には弁護士を通してきちんと対処させるわ。それよりもユウくん。早くシウに会って安心させてあげて? 待ってるから」

「けどイコさんは?」

「私は十分話をしたから。今度ね、シウと一緒にご飯を食べにいく約束をしたの」


 そう言って微笑んだイコの表情は、今まで見たことのない優しい母の顔だった。

 そうか……ちゃんと話ができたなら良かった。


「ユウくんともまたゆっくり話ができたらいいかな? 連絡してもいい?」

「———どうかな? シウがヤキモチ妬かなければ。イコさんの方も守岡さんが心配するんじゃない?」

「あはは、私達は大丈夫よ? それなりに大人なんだから、ね?」


 大人だから心配なのだとユウは思ったが、口にするのをやめた。


「シウのこと、よろしくね」


 そう言って立ち去るイコさんを見送り、ユウも病室の中へと入っていった。


 ・・・・・・★


「あーぁ、ユウくん……いい男になっちゃったわね。勿体無いことしたかなー……なんてね」


 イコとユウ、シウの時とは違う大人の雰囲気が漂いますね。なんだろう……この二人にだけ漂う、これはこれで好きな雰囲気。


次回は12時05分に公開します。

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