第65話 ・・・★ どんまい、瀬戸くん 【シウside】
・・・★ シウside...
今日は水曜日で展示場が休みだったので、ユウに近くまで送ってもらって学校へ向かった。
「それじゃ、シウ。また放課後に迎えに来るから」
「うん、いってきます……♡」
普段の会話ですら自然と甘くなる。昨日のユウの顔が脳裏に焼き付いて離れない。思い出しただけで顔が赤くなって、口元が緩んでしまう。
「随分とご機嫌だね、シウ」
「あ、瀬戸。昨日は大丈夫だった?」
「全然ー……。親父にもこってり絞られた。向こうの親御さんに謝りに行くぞって。俺は産んでもらって育てるって話したのに、思いっきり殴られたよ」
まだそんなことを話しているんだ。そういえば瀬戸はユウになりたいって話していたんだっけ? 顔の系統は似ているかもしれないけど、頼りにならないし、気も利かないし。十年経ってもユウのようになれるとは思えなかった。
「どんまい、瀬戸。君には無理だよ」
「シウまでそんなことを言う⁉︎」
「んー……そもそも応援するとしたら、瀬戸の家族と荒牧さんの家族を説得できたらかな? そしたら応援してあげなくもないけど」
「そんな無理ゲー言わないでよー。あー何でこんな目に遭ってんだろう、俺」
自分のことを不幸と思っているうちは無理だよ、瀬戸。
けど瀬戸は蹲ったまま中々立ち上がろうとしなかった。どうしたのだろう?
心配したシウは背中を摩って声を掛けたが、瀬戸は苦しそうに唸ったまま何も話さなかった。
「瀬戸? 瀬戸⁉︎」
只事じゃないと判断したシウは、必死に肩に乗せて保健室へと向かった。重い……っ、けど行けないことはない! 周りの生徒の力を借りて保健室まで運び込んだシウは、瀬戸をベッドに寝かせて様子を見ていた。
おそらく彼も彼なりにストレスを抱えていたのだろう。胃の辺りを抑える彼を見ながら薬箱を探してみた。
「ほら、胃薬だろ? 俺のをやるよ」
聞き慣れた声に振り返ると、そこには根岸が立っていた。何でここにいるの?
騒めく気持ちを抑え、改めて薬箱を探し始めた。最悪だ、和佳子に貰った防犯ブザーも催涙スプレーもクラスメイトに預けたカバンの中にある。スマホはポケットの中にあるから、最悪助けは呼べるけど……それでも緊急時には心許ないモノだった。
「そんなに邪険にしなくてもいいだろ? 友人の瀬戸を心配してきただけだよ」
「……そうなんだ」
そう言う割にはやたらと距離が縮まっている気がする。あの時の傷は綺麗に完治していたけど、相変わらず根岸のことは怖かった。彼に関わったせいで、ユウにも随分と迷惑を掛けた。もう厄介ごとは勘弁したいのに、どうして彼はかまってくるのだろう?
「シウが俺を避けるようになってからさ……俺も俺なりに考えたんだ」
「え?」
あの根岸が? 考えたって何をだろう? もしかして彼なりに己の愚かさを反省したのだろうか?
「やっぱり俺はシウが一番好きだって。他の女じゃダメだ。俺にはお前が必要なんだ」
———根岸に期待した自分が馬鹿だった。
シウは無言のまま顔を背けてコップに水を注いた。
「何だよ、シウ! 今、俺はお前に渾身の告白をしたって言うのに!」
「それなら答えるよ。私には好きな人がいるから根岸の入り込む余地はありません。ねぇ、このまま保健室にいるなら瀬戸のこと頼んでいい? 私は養護の先生探してくるから」
「ちょっと待てよ! なぁ、シウ!」
保健室から出ようとしたシウの腕を掴んで、強引に引き摺り込んだ。
痛い……っ、このままでは前回の二の舞になってしまう。これ以上ユウには迷惑を掛けられないと必死に身構えた。
「シウ……、そんなに俺を拒むなら、いっそ力づくでお前を……!」
「っ、嫌だ! 離してよ!」
だが抵抗も虚しくベッドへと引き摺られ、そのまま投げ飛ばされるようにベッドへと叩き付けられた。必死に逃げるが道を塞がれて進めなかった。
「……ん、シウ。もしかして首のそれ、キスマークか? 何だよ、お前もヤることやってんじゃん。エロい女だな」
「違う、これは……!」
ユウがつけてくれた愛しい痕だ。根岸の快感だけの行為と一緒にしないで欲しい。カチャカチャとベルトを外す音が鼓膜を揺らした。
嫌だ、嫌だ、嫌だ……!
シウは無我夢中で抵抗してやっとの思いで出入口のドアへと駆けた。だがこんな千載一遇のチャンスを根岸が見逃すはずがなく、またしてもシウの腕を掴んだ瞬間、二人の身体がバランスを崩した———……。
大きな物音と共に真っ赤な鮮血が飛び散った。ベッドに横になっていた瀬戸も只事じゃないと痛む身体を起こしてカーテンを開くと、そこには右手を押さえ込んで悶える根岸と、切れた頬から流れる血を必死に押さえ込んだシウの姿が飛び込んできた。
「根岸! シウ!」
「痛ェッ! 骨が、骨が折れた!」
どうやら根岸はバランスを崩し、倒れた瞬間に受け身を取り損ねて腕を痛めたようだった。一方シウは近くのキャビネットの角で顔をぶつけて大きな傷を負ったようだ。どう見ても彼女の方が重傷だ。慌てた瀬戸は急いで廊下に飛び出て助けを求めた。
・・・・・・・・・★
「イテェー、痛ェーよォー!」
「根岸静かにしろよ! どうせただの捻挫だろう? 冷やせば治る!」
「違ェよ、本当に折れてるんだよォー!」
おそらく……根岸、荒れます💦
今回は66話を誤って先に公開してしまったので、先行公開です……本当にすいませんでした!
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