第59話 ・・・★ 堕ろせばいいじゃん 【シウ視点】
・・・★ シウ視点
「え、水城さんが? イトコ……?」
思わぬ一報を受けたシウは想像すらしていなかった事実に隠せなかった。荒牧と水城が血縁者だったなんて世間はなんて狭いのだろう。でも何かな、この妙な納得感は。
何がともあれ全く埒があかなかった瀬戸の問題だったが、少しは進展が望めそうで安心した。
「あとは根岸だ。とりあえず荒牧さんのお腹の子供について話さないといけないね」
基本的に話すのは瀬戸で、和佳子は念の為に付き添うだけだ。そして万が一に備えて更に遠くからシウが見守るのだが、果たしてどうなるのか不安は消えることはなく、ずっと心の奥で燻り続けていた。
「けど行くしかないよ。ねぇ、根岸! ちょっと話があるんだけど、来てくれない?」
思い立ったら即行動の和佳子は、早速根岸に声を掛けて渡り廊下へと誘い出した。最初は面倒くさそうにしていた根岸だったが、渋々と立ち上がって歩き出した。
「瀬戸、ほら行こう?」
この行動力は瀬戸にもシウも持ち合わせていないので素直にスゴいと尊敬した。案ずるより産むが易しとはこのことだろう。話し合いが上手くいくようにと願いながらシウは三人の姿を見送った。
「話ってなんだよ。瀬戸、お前まだ気にしてるのか? この前ちゃんと謝っただろう?」
「もう、根岸ちゃんと聞きなさいって! ほら、瀬戸もちゃんと話す! 時間ないんだから!」
せっかちな根岸と焦ったい瀬戸の間と取り持ちながら和佳子は急かした。不機嫌な根岸に怯えて口籠もっていた瀬戸だが、やっと重たい口を開いて状況を話し始めた。
「じ、実はお前と浮気をした彼女のことなんだけど」
「何だよ、まだ文句があるのか? あの一回だけだし、もう会ってねぇよ? それより瀬戸はまだ付き合ってるのか?」
「付き合ってるっていうか、実はさ……俺とお前が行為を持った時期に妊娠したみたいでさ」
「———は?」
「俺達のどちらかが父親らしいんだ」
瀬戸の言葉に流石の根岸も絶句して黙り込んだ。見る見るうちに顔面蒼白になって、次第に目が泳ぎ出した。
「嘘だろ? 俺、ちゃんとゴムをしてたぞ? しかも2回しかしてねぇのに」
「俺もだよ……。っていうか、根岸もちゃんと避妊していたんだな」
「当たり前だろう? えーマジかよ。俺、父親になるのか?」
意外な反応に瀬戸も和佳子も虚を突かれた。てっきり俺の子じゃないって喚いて否定されると思っていたのだが、この淡々とした様子は想定外だった。
「ちなみに何週目か分かるのか? 病院には行ったのか?」
「いや、アプリで調べたらおそらく10週くらいだろうって。病院にはまだ行ってない」
「マジかー! 良かったな、瀬戸! それならまだ中絶に間に合うじゃねーか! 俺の知ってる先輩が安くで施術してくれるところを知ってるぜ?」
パァっと顔色が明るくなった根岸に、一瞬で引き気味に顔を顰めた。
良かった? 間に合う?
「だってそうだろう? 俺達まだ学生だぜ? 現実的に考えて子供なんて産めるわけねぇだろう? まぁ、今回は二人ともツイてなかったと言うことで、費用は割り勘にしねぇ? お前とは友達だからな、特別に俺もカンパするよ!」
バンバンと背中を叩かれたが、違う……こんな言葉を望んでいたんじゃないと瀬戸は憤りを露わにした。
「何でだよ……っ! 根岸は何で、そんな簡単に切り捨てられるんだよ!」
瀬戸は根岸の胸倉を掴んで壁に押し当てた。鈍い音と共に根岸も顔を歪めたが、何もせずに静かに怒りを受け止めていた。
「何だよ瀬戸。お前も嫌じゃねーの? 付き合ってまだ3ヶ月くらいだって言ってたじゃねーかよ? しかも他の男と浮気をするような女だぜ? 中絶費用を出して別れられるなら、それでいいじゃねーか? 何なら浮気した償いとして俺が出してやってもいいから、な? もうさっさと精算しようぜ?」
「軽々しく言うなよ!」
怒りに任せて腕を振り上げた瀬戸だったが、暴力沙汰はダメだと和佳子が全力で止めた。
「ダメだよ、瀬戸! 暴力はダメ!」
「けど! 俺は……!」
「くっ、何だよ全く! とにかく俺は堕すなら協力するけど産むとなると別問題だ! 絶対に認めねぇからな?」
和佳子は怒りで震える瀬戸を宥めていたが、実際は根岸が言うことが正論だった。彼氏に絶対的な信頼を寄せている和佳子ですら、今妊娠したら中絶を選ぶだろうと考える。堕す選択があるのなら、そちらを選ぶのが正解だ。
「……ねぇ、根岸。荒牧さんがアンタとも話したいって言ってたんだけど」
「あァ? 会ってもいいけど俺は堕ろせとしか言わねぇよ?」
そう言って根岸は教室へと戻っていった。
・・・・・・・・・★
「非情な正論の根岸と、優しく悩む瀬戸。正解は………私にも分からない」
次の更新は6時45分を予定しております。
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