第57話 頼りになる子、その名は和佳子ちゃん

「なぁ、シウ。やっぱり瀬戸くんたちの問題って、これからも関わらないといけないのかな?」


 シウに癒され終えたユウは、冷蔵庫から持ってきた炭酸水にライムを入れてシウに渡した。ユウの言葉に首を傾げるシウだったが、この子はことの大きさに気付いているのだろうか?


「接近禁止令が出ているから根岸くんに近付いて欲しくないだけじゃないんだ。僕はシウのことが心配で……もし今回のことで何かあったら、きっと僕は根岸くんが五体満足で生きることを許せなくなるかもしれない」

「え、ユウ……? ユウってそんな冗談を言う人だった?」


 彼女は笑いながら返してきたけど、茶化さないで聞かないで欲しい。シウが思っているよりもずっと本気だ。問題が起きたら犯罪に手を染めても構わないほど、憎くなる自分が容易に想像できる。


「ネカフェに寝泊まりをしていた彼らを助けたい気持ちは理解できたけど、これから先を手助けするのは別問題だと思う。そりゃ、確かにちゃんと病院に行ったか確認する為にシウに同行してもらうのは賛成だけど、その先まで手助けや面倒を見るのは別問題だろう?」

「………そうかもしれないけど」

「しかもこれから対峙するのは妊娠するような行為を容易くする男だよ? シウが警戒しているのは知っているけど、相手が相手なだけに不安で仕方ないんだよ」


 真剣な眼差しで懇願するユウに、シウは観念したように目を瞑った。

 素直に……嬉しかった。まさかこんなにユウが心配してくれると思っていなかったので、身震いを抑えきれないほど感激していた。


「それじゃ……和佳子に相談してみる」

「和佳子さん?」

「うん、私の親友。ねぇ、和佳子に事情を話すからユウも一緒に話してくれる?」


 そういってユウの手首を掴み、そのままベッドに引き込んできた。今から電話をするのだろうか? そうシウを見ると彼女はスマホ画面に向かって手を振って挨拶を交わしていた。

 まさか、テレビ電話?


「和佳子、起きてた? ごめんね、急に電話して」

『ううん、全然大丈夫だよ? 今、彼氏と一緒に映画見てたー♡ あれ、もしかしてシウ、それルームウェア? 超ー可愛いんだけど♡』


 いやいやいや、普通に話しているけど、まずくないか⁉︎

 ユウは何度かシウの迎えの時に父親として挨拶をしている。そんな男が深夜にベッドルームで共に時間を過ごしているなんて、倫理的に批判されても反論できない。


「そうだ、和佳子。実は彼が私の彼氏。やっと紹介できたよ」


 ユウが逃げだそうと動く前に、ガシッと腕を掴まれカメラに映し出された。あ、やっぱり見覚えのある子だ。顔がどんどん引き攣っていく。血の気が引いて、どんな表情をしているのか全く想像できなかった。


『こんばんわー、シウの親友の和佳子です! シウからお話は予々かねがね! 良かったですね、無事にお付き合いができて』


 ———え、意外と友好的? もっと変な顔をされて軽蔑されるような視線を向けられると思っていたのだが。予想外の反応にユウも戸惑いを隠せなかった。


『っていうより、本当にカッコいいー! シウと並ぶと美男美女! あの、今度うちの彼氏も一緒に遊びましょうよ? ねぇ、シウー♡』

「うん、楽しみ。あのね、和佳子の彼氏も大人なんだよ? 確か25歳」

「あ、あぁ、前に話していた年上の彼氏がいる子って、この子だったんだ。本当にシウと仲良くしてくれてありがとうございます」

『とんでもないですー! むしろ私の方がシウに元気をもらってて、あーん♡ シウ、幸せそう♡』


 本音で喜んでくれている和佳子ちゃんを見て、ユウも安心した。こんな子がそばにいてくれたら安心だ。


「あ、そうだ。あのね、和佳子。実は瀬戸の件でお願いがあって———……」


 そういってこれ迄の事情を和佳子に話した。




『え、それマジ? 根岸、マジ最悪なんだけど?』

「うん、最低最悪。それで病院で確認する前に、根岸にも妊娠の可能性を伝えて欲しくて」


 シウの言葉に和佳子も大きく唸り出した。

 正直、あの根岸が素直に「はい、分かりました」と納得するとは思えなかった。


『とりあえず、事実を伝えるのは私と瀬戸でするから、シウは根岸に接近しない方がいいよ? 彼氏さんの心配はもっともです! あれは歩くセクハラです! そんな奴にシウを近付けさせるんてあり得ません! 私がシウを守ります! 指一本触れさせません!』


 瀬戸くんの時と違って、なんて頼もしいのだろう。彼女にならシウを託せると確信したユウは、和佳子に任せることにした。



・・・・・・・・★


「シウの為なら何だってー!」


和佳子ちゃん、頼りになります✨


 次の更新は6時45分を予定しております。

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