第54話 お腹の子供が可哀想だ

 人間、必要なら嘘をつくこともある。それは生きていく上で必要なことだし、仕方ないことだと分かっている。しかし、嘘にもついて良い嘘と悪い嘘があり、荒牧さんの嘘はおそらく後者だろうとユウは普段よりも大きめなため息を吐いた。


「……どうしてそんなに責めるんですか? そもそも貴方達には関係ないことじゃないですか! 私が妊娠した子です、私が決めて何が悪いんですか⁉︎」


 君が言っていることは最もだと思うよ、荒牧さん。だがそれは君一人で解決できて、決められることなら誰も文句は言わないだろう。


 少なくても子供は女性一人で出来るものではないし、女性一人に負担をかけさせることも間違っているのだ。

 だから明らかにしないといけないのだ。

 誰がお腹の中の父親なのかを———……。


「優しい人が損するのは許せないさがでね。自分がその役割になる分には構わないけど、他の誰かがそうなるのを黙って見てはいられないんだ」


 有無を言わせないユウの視線に荒牧もたじろいで瀬戸に助けを求め出した。ここで選択を間違えれば、瀬戸は大きな味方を失うことになるだろう。

 一度は別れを決めた自分を裏切った彼女か、さほど面識のない親身なお人好しか。

 数秒の沈黙の末、彼が選んだ答えは……親身なお人好しだった。


「調べよう……? 俺の子なら覚悟は決まるけど、今のままじゃ寿々もお腹の子も大事にすることなんて無理だ」

「———大成、嘘でしょ?」


 自分よりも他人の意見を選ぶなんてと信じられない目で見ていたが、そもそも先に裏切ったのは彼女の方だ。


「一人でも育てるつもりだったんだろう? 浮気相手根岸くんの子供だった時はその覚悟を持てばいいんだよ」


 優しい大人になれなくて申し訳ないと謝りながら、ユウは部屋へと戻っていった。



 それからしばらくシウを含めて三人で色々話していたらしいが、結果明後日には産婦人科へ受診し、お腹の様子を確認するとのことだった。一人では心細いのでシウと二人で行くと約束をしてくれた。

 そしてDNA鑑定だが調べてみると鑑定費用に10万程掛かるそうで、このお金は瀬戸と荒牧の二人で負担すると決めたそうだ。


「瀬戸くん、君は普段土日は何をしてる?」

「俺ですか? 基本は遊びに行ったり、ダラダラしたり」


 それなら問題ないだろうと、ユウは勤め先のアルバイトを勧めた。日雇いの単発のアルバイトだし、シウの学校は申請さえすればアルバイトも可能なので問題ないだろう。

 瀬戸くんからしてみれば貰い事故のようなものだが、可能性がゼロではないので罪の重さを知る上で自分でお金を稼いでもらうのも良い経験なのかもしれない。


「待ってください! もし、もし検査をして大成の子じゃないって分かったら!」


 一人不穏な様子を漂わせて思い詰めていた荒牧が、今更な発言を繰り出していた。一人でも産むと言っていたのは君だろうと見ていると、突然大粒の涙を浮かべながら子供のように泣き喚き出した。


「なんで、どうして皆して私を責めるの? 私だって妊娠したくてしたわけじゃないのに! それなのに責め立てるように堕ろせとか調べろとか酷すぎる!」

「———え? これは僕に対して言ってるのか?」


 それを言われたら、見ず知らずの少年たちを無償で泊めて欲しいと言われている上に相談にまで乗っている自分は何なのだろう?

 そんなユウに、これ以上どうしろというのだ?


「それなら根岸に言えばいいよ」


 そのシウの発言は、出来れば誰も苦労しない真っ当答えだった。だが、あの宇宙人のような性欲の塊のような男に何を言っても意味がないと思い込んでいた人間にとっては、労力の無駄としか思えない選択だったが。


「でも根岸が悪いなら、根岸に責任を負わせるしかないでしょう?」

「そうなんだけど……アイツには何を言っても無駄だと思うよ? 俺には関係ないの一点張りだったし」

「けど父親が根岸なら瀬戸は関係ないし。根岸と関係を持った荒牧さんが根岸と話すしかないよ」


 そんな絶望的な言葉にますます泣き喚く荒牧。一時の快感に惑わされた末路だ、仕方ない。

 そのせいで瀬戸という真面目な彼氏も、お金も信用も何もかも無くすことになるがやむ得ないのだ。


「明日、私と瀬戸で根岸を説得してみるから、荒牧さんもちゃんと話してね」


 第三者シウにここまで言われては、荒牧も頷くことしかできず、観念したように了承した。



 ・・・・・・・・★


「悪い予感しかしないけど……」


 次の更新は12時05分を予定しております。

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