第52話 ・・・★ 根岸、アンタって奴は……! 【シウ視点】
・・・★ シウ視点
かなり遅刻をして教室に入ったシウは、カバンの中に入っていた教科書やノートなどを取り出しながら根岸へ視線を向けた。
相変わらず能天気にアホみたいに雑談をして楽しんでいる。一緒に話している女の子に隙あらばボディタッチを繰り返す。ひどい時にはお尻や二の腕なんかも触ってくるから、油断ならないエロ猿である。
ほら、今も脇腹をツンツンしている。女子も怒れ、そこでアッパーを喰らわせろ。
「シウシウー、遅刻したけど何かあった? 具合でも悪いの?」
「和佳子、おはよ。ううん、ちょっと瀬戸の相談に乗っていただけ」
「瀬戸? そういえば今日来てないねー。あ、知ってる? この前瀬戸と根岸って大ゲンカしたらしいよ? 何でも瀬戸の彼女と根岸が浮気したらしくて」
今一番知りたいタイムリーな話だ。その話を詳しく聞きたいので和佳子と授業をサボりたいけど、ユウに怒られたばかりだったので観念した。けど気になる。瀬戸の彼女について色々聞きたい。
「次の授業、自習でプリントらしいから全然いいよー! むしろシウが身内ゴシップに興味があるって珍しいね? 普段は興味ないって感じなのに」
「うん、ちょっとね。それで……根岸と瀬戸はどうなったの?」
瀬戸の彼女……
「……根岸最低」
けど荒牧さんは嬉しかったようで、熱烈にアピールしてきた根岸と再び遊びに出掛けて、そのままホテルに直行。その時の話を根岸が武勇伝のように語っていたところを瀬戸が聞いて大乱闘。
「……荒牧さんも末期だね」
「———瀬戸も災難だよね。友達と彼女、両方に裏切られて。それがきっかけで別れたって聞いたけど、シウに相談したってことは瀬戸はまだ引きずってるのかな?」
「え?」
別れたの? それじゃ、瀬戸は何であんなに悩んでいたの?
その話を聞いて、少しだけ堕ろさない理由が分かった気がした。
彼女の荒牧さんは瀬戸と復縁したい為、瀬戸との繋がりがある子を堕したくないのだ。たとえ根岸の子の可能性が高くても、優しい瀬戸に縋る思いで繋がっているのだろう。
けどそれは間違っている。
そんなことをしても瀬戸の心は戻らないし、お腹の子供を利用するなんてもっての外だ。
それにしても瀬戸はまだ彼女だと言って色々世話をしてあげているなんて、少しは良いところがあるじゃないかと感心した。
別れた後のことは自分には関係ないと突っ返す男もいるだろうに。もしかしたら自分の子の可能性があるからかもしれないけれど、それでもだ。
「それで根岸は少しは反省したのかな? 相変わらずそうに見えるけど」
「相変わらずだよね、あのバカは。女の敵。シウは近付いたらダメだよ? 根岸が近付いてきたら防犯ブザーを鳴らしてね? そしてこの催涙スプレーをぶっ掛けるんだよ?」
和佳子も相変わらず世話焼きだなと思いつつ、ありがたく頂戴した。チラッと根岸に視線をやると、シウに気付いたのかニヤニヤしながらこちらに向かって歩いてきた。
うわっ、最悪……。
「ちょっと根岸、シウに近付かないでよ! あっちに行け!」
「何だよ、お前らが俺を見てたんだろう?」
「———これ以上近付かないで? 根岸のお母さんから接近禁止令が出ているから、これ以上近寄られると私が怒られる」
「そんなこと気にするなよー。俺とシウの仲だろう?」
根岸との間には嫌悪感と憎悪しかない。
根岸が一歩近づく度にシウも一歩後退りをした。一向に縮まない距離に、流石の根岸もイライラを覚え始めたようだ。
「おい、シウ。いい加減にしろって」
「私はただ約束を守っているだけ。あ、話もするなと言われていたんだ。口を塞がなきゃ」
そう言って両手で口を塞いだシウに、とうとう根岸はキレ出した。全力で走ってきた根岸から逃げる為に、シウも全力で廊下を駆け抜けた。
「おい、お前ら! 今は授業中だぞ! それに廊下を走るな!」
他のクラスの教師が窓から顔を出して叱咤の声を上げた為、根岸は立ち止まって注意を受けたが、それでもシウは最後まで駆け抜けた。
・・・・・・・・・★
「接近禁止令を守る為です。仕方なかったのです(キリッ)」
それでも反省文を書かされるシウ。きっと頬を膨らませながら書いていたでしょう。
次の更新はストックが少しできたので12時05分を予定しております。
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