第50話 とりあえず部屋を貸してもらえませんか?
「あのね、この関係の話って迂闊に人に相談できないし、子供の私達では限界があるからユウに相談に乗ってもらいたくて連れてきたの」
「瀬戸大成です。ユウさんは寝取られた奥様のお子さんを育てた先輩だと伺いました。何卒ご鞭撻よろしくお願い致します!」
なんだ、その説明は……とシウを睨みつけたが彼女はそっぽを向いたまま知らないふりを続けていた。学校をサボってモデルルームへやってきたシウ達に驚いたが、話を聞いて更に呆れ返ってしまった。
彼女が妊娠したけれども、浮気相手の根岸の可能性も捨て切れないとか……。
———いや、それは堕そう?
そもそも子供が子供を産んで育てることをユウはよくは思っていない。宿った命に罪はないのだが、どちらが父親から分からない状況で生まれてきても幸せになれるとは思えない。
「彼女はクリスチャンなので堕ろしたくないと頑なになっていて……。そのせいで彼女の両親ともケンカをして家を出てきたらしいです」
「それじゃ、今彼女は?」
「とりあえずネット喫茶で寝泊まりしています。俺も正直、どうしたらいいのか分からなくて……」
まるで16年前のデジャブのようだ。
あの時のイコさんも頑なに産むと決意して、よく両親と衝突したものだ。当時のユウは何も分からずにイコの味方をしていたが、今なら違う立場に立つだろう。
「正直、苦労するのが目に見えているからオススメはしないかな。子供のことを考ると産んであげたいって気持ちになるのは分かるけど……今回のは状況があまりにも酷すぎる。瀬戸くんは浮気をした彼女を支え続ける自信はある?」
「それは……っ、正直根岸と関係を持ったと聞いて、はらわたが煮え返る思いでした。彼女は俺の子だと信じて産むと言っていたけど、本当は根岸が本命で、アイツの子供を産みたいと思ってるんじゃないかって思うほど……!」
瀬戸くんの気持ちも分からなくもない。
イコさんがシウを堕さずに産んでくれたおかげで自分達は出逢えたのだが、こんなのはイレギュラーだ。瀬戸くんのことを考えるとユウ自身が悪役になるしかないと覚悟を決めた。
「少しでも迷いがあるならやめておいた方がいい。子供を産んで、はい終わりじゃない。これからずっと、それこそ死ぬまでその子を育てていかなければならないんだ。その覚悟がないなら彼女を説得するしかない。今でもお腹の子はどんどん大きくなっているのだから、決断は少しでも早い方がいいよ?」
「で、でも彼女は一人でも産むって」
「家族からも反対されているのに? その意地は子供を不幸にするだけだと思うけど? 本当に産みたいのなら、まずは両親の協力を得るしかない。そんなこともできない人に人を育てる覚悟があるとは思えないな」
ユウの言葉に瀬戸も言葉を失った。さすがは11歳で父親になっただけのことがあると感嘆した。
「———瀬戸くん、それは語弊がある。実際に父親になったのは22歳。しかもそれすら違ったらしく、僕とシウは親子ですらなかったんだから」
「え? それってどういう意味ですか?」
「ユウはお母さんに騙されて未婚のままだったんだって。だから今は私の彼氏」
「え? えぇ……?」
シウの言葉にますます理解が出来なくなった。どういう意味だろう?
「ユウはずっと私の初恋の人で、私の未来の旦那様。瀬戸、内緒だよ?」
「えー……? それはつまり?」
ユウに解説を求めると見つめてきた瀬戸に、観念したように溜息をついた。そもそもユウとシウの関係は複雑すぎるのだ。
「父娘だと思っていたけど違った。そして今は真剣に交際をしている関係だと思ってもらえば嬉しいかな? 複雑で申し訳ないけど……」
そもそも瀬戸自身の問題も複雑なのに、部外者の二人がこんな真摯に聞いてくれているのだ。
偏見を持ってなじるのはお門違いなのだろう。何よりも二人とも不埒な関係というわけでもないので瀬戸も納得したように頷いた。
「それでユウ。今、うちって部屋が余ってるでしょう? 瀬戸達にずっとネットカフェで寝泊まりさせるわけにもいかないから、ウチに泊まってもらおうと思ったんだけど、どうかな?」
そう、学生の瀬戸達は八方塞がりで困っていた。
ホテルに泊まり続けるのも金銭的に厳しいし、かといってネットカフェばかりでは身体にも悪い。そこでシウが助け舟を出したのだ。
「………まぁ、数日なら構わないけど。その前にご家族と、何よりも彼女と話した方がいいよ?」
「本当に何から何までありがとうございます! いや、シウの彼氏ってカッコいい上に頼りになって凄いな……!」
真っ直ぐに尊敬する瀬戸にシウは自分のことのように嬉しそうに胸を張った。
「私の部屋を片付けておくから、二人で自由に使ってもいいよ? 私はユウと一緒の部屋で過ごすから」
———あ、そうか。泊まるということはそういうことになるのか。確かに瀬戸くんカップルが一緒の部屋になった方がいいだろうから、自然とシウとユウが同部屋となる。
昨日はどうしてもと懇願されて一緒に眠ったが、これがしばらく続くとなるといささか問題である。
「本当に何から何までありがとうございます! お二人の邪魔は致しませんのでよろしくお願い致します!」
今更ダメとは言えない……。ニヤリと笑うシウを見ながらユウは顔を引き攣らせた。
・・・・・・・・★
「仕方ないでしょ? ねぇ、ユウ♡」
確信犯なシウちゃん。ユウはどんどん瀬戸際に追い詰められますw
そして第二部から更新が一日1回になります。すいません、私の執筆が遅れている為、ストックが間に合いませんでした。
次の更新は6時45分を予定しております。
続きが気になる方は、フォローをよろしくお願いいたします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます