第48話 そんな美味しい環境、自分も住みたい!
「あ、永谷先輩、おはようございまーす。久しぶりな気がするんですけど、気のせいっすかね?」
「おはよう、水城。いや、僕も久しぶりな気がするよ」
正確にはそんなに経っていないのだが、最近は何かと休みがちだったので、仕事が疎かになっていた気がする。二人には何かとお世話になっていたし、今までの経緯を報告した方がいいだろう。
ユウは神崎が出社してきてから、これまでのことを話し始めた。そしてこれからのシウのことについても相談をした。
———だが、結論から言おう。
水城に相談したのは間違いだった。
「えぇー……っ! まじすか? 永谷先輩、それ結婚詐欺の類じゃないっすか? 変な保険とか入ってなかったすか? 妙に料理が塩辛かったとか?」
「料理は僕が作ってたし、保険は入ってなかったから問題ないよ。むしろ入らないといけないな」
「くぅっ、シウちゃんとイチャイチャパラダイスとかズルい。俺もしたいのにー!」
そんな野郎の会話を苦笑しながら聞いていた神崎は、話題をぶった斬るかのように大きめの咳払いをした。
「ゴホンっ! 永谷……お前はこれからどうするつもりだ? シウさんが18歳になるまでお前が面倒を見るのか?」
母親であるイコさんから頼まれたし、頼みの綱だと思っていた祖父母の家はゴミ屋敷。しかも祖母も脳梗塞の後遺症で半身不随。本音を言うと、ヤングケアラーのようなことをシウにはさせたくなかった。
「前にウチの会社がモデルケースとして手掛けたシェアハウス入居者募集をしていたじゃないですか? それにシウの入居をお願いできないかと思ったんですが?」
二世帯でもシェアハウスでも活用できるようにと提案する為に建設されたモデルハウス。数ヶ月前から企画が上がってはいたが、現状はどうなっているか分からなかった。
入居の条件として、共有スペースを宣伝のために動画撮影や感想インタビューをするなど情報提供を求めていたのが敬遠されたのか、思うように入居者が集まらなかったと噂を耳にした。
「そうだな。建築も済んでいることだしモデルハウスとして公開するよりもモニターを募集した方がいいんだが……」
「あれって確か三人募集でしたよね? 僕が入って神崎さんと三人ってわけにはいかないですか?」
「なっ、なな———っ!」
思わぬ提案に神崎は酷く取り乱し、机の上のファイルをガタガタと崩し落とした。
「な、なな永谷、お前と一緒に住めというのか⁉︎」
「知らない人よりもいいのかなって。ほら、広告に使用するからコンプライアンス的にも違反しないような人がいいとも話していたし」
幅広い年代から男女問わず情報も取れる、まさに一石二鳥だ。だが神崎さんは顔を真っ赤にしたまま歯を食いしばって耐えていた。
「む、無理だ、無理無理! そもそも私は誰かと生活するなんて向いてないんだ! 料理もできないし、掃除も苦手だ!」
「料理は僕がしますし、お掃除ロボットが備え付けられているから問題なくないですか? 職場も近くなるし、良いことづくしですよ?」
「そういう問題じゃ……!」
真っ赤に思春期の女の子のように赤くなった神崎を見て水城はピンときた。結局この人も永谷先輩の顔に惚れていたメスだったのだと———!
「というより、普通に俺が住みたい。シウちゃんとイチャイチャ青春シェアハウスしたい」
最も恐れていた問題児の参加希望にユウも口角を引き攣った。水城が住居人じゃ、守岡のもとへ預けるのとリスクが変わらないじゃないか。
「コンプライアンス的に違反しない人が求められるって分かっているのか?」
「うわっ、酷っ! 永谷先輩にだけは言われたくない! アンタが一番パコパコする可能性が高いし!」
「しないよ、そんなこと!」
そもそもしないようにと応募するのだ。したら意味がないじゃないか……とユウはブツブツと自信のない言い訳を呟いていた。
「まぁ、一人は社内の人間がいた方がいいのは確かだが、出来れば生きたデータが欲しいんだ。もう一度、募集をかけてみるから待っててくれないか?」
再度検討すると言われ、ユウは胸を撫で下ろした。だがシウが料理が出来ないならお前がしろと神崎さんに命令されてしまった。
結局ユウは、家事マシーンとして使われる運命にあるらしい。
「んじゃ、俺は洗濯係として毎日通います!」
「却下だ、この犯罪者予備軍め! 会社の看板に泥を塗るなよ?」
………雲行きは怪しいが、少しでも早く企画が通ることを祈るしかなかった。
・・・・・・・★
「もちろん、この企画はフィクションで、こんなシェア企画は実在しませんのでご安心ください。提供はワンホームハウジングでお送りいたしましたー」
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