第47話 シェアハウス? けどその前に

 とりあえずマンションに戻ってきたユウ達はぐったりとしながらソファーに腰掛けた。状況は何一つ変わっていないが、とにかく疲れた。

 この数日間、疲労が半端なかった。


「ユウ、お風呂沸かそうか? 何なら背中をお流ししましょうか?」

「遠慮しておきます……ただでさえ少ないHPを削りにこないで?」


 だがどんなに疲れていてもお腹は減る。冷蔵庫の中に何かあっただろうか? キッチンへ向かったユウの後をついて回るシウ。トコトコトコトコとカルガモの親子のようについてくるので気になって仕方ない。


「どうした? 何かあった?」

「———ねぇ、ユウとお母さんって、もう何もないんだよね?」


 そうだな、元々法的に結婚していたわけじゃないので終わりのタイミングが分からないが、むしろ始まってすらいなかったという方が正しい気がする。


「ってことは、私達を妨げるものも何もない?」

「妨げるもの……?」

「父娘じゃなかったんだから……もう我慢しなくても良いよね?」

「が、我慢は必要なんじゃないかな? シウは未成年で僕は大人だから」

「でもお母さんから許可をもらったんでしょ? あのね、私の友達に和佳子って子がいるんだけど、その子の彼氏って25歳なの。もちろんキスもしてるし、その先も……とーっても仲良くしてるんだよ?」


 そう言ってグイグイ距離を縮めてくるあたりが確信犯だ。シウの手がゆっくりと身体に絡み付く。


「ねぇ、ユウ。私のこと、好き?」

「もちろん好きだよ。一生大事にしたいと思ってる」

「———ありがとう。私も好き」


 俯いていた顔が上を向き、そのまま唇に触れてきた。久しぶりの感触にユウも少し興奮を覚えたが、自分が折れてしまっては歯止めが効かなくなると思い、必死に耐えた。耐えたが……それももう限界に近い。


 こんなに可愛い子が自分のことを好きだなんて奇跡だと思ってしまう。本当なら今すぐにでもメチャクチャになる程抱きしめたくなるが、本当に大事にしたいと思うから今は耐えるしかなかった。


「でも1キス1ハグの件は残ってるよね? エッチはしなくてもいいから……お願い、今日は一緒に寝て欲しいの」


 想像しただけで怖いんだけど?

 眠りについた瞬間に既成事実を作られそうで、ウカウカ眠れる気がしない。


 だが、色々あったのは自分だけではない。

 シウにとっても母親の失踪、祖父母の家のゴミ屋敷化。祖母の脳梗塞入院……耐えられなくて甘えたくなる気持ちも分からなくはない。


「それじゃ、今日だけ特別に……僕らのベッドで寝る? 嫌じゃなければだけど」


 よくよく考えたら、イコさんと使っていたベッドにシウを寝かせるなんて、なんと非道徳的なんだろう。あまりの罪悪感に胃が押しつぶされそうだ。


「ユウも悪い男だね。お母さんとイチャイチャしていたベッドに誘うなんて」


 やっぱりシウも気にするタイプか。むしろユウが鈍感すぎるくらいなのだろう。やっぱり買い直すべきなのだろうか? 


「イチャイチャしていたベッドっていうけど、一回もセックスはしてないんだけどね」


 ぼそっと呟かれた言葉に、流石のシウも「え?」と聞き返してきた。


「一回も……セックスしたことがなかった?」


 あれ、シウは知らなかったのか?

 自分達が夫婦らしい営みを全く行っていなかったことを。だがそれは仕方ない。彼女は帰って早々自室に籠るタイプだった。


「待って、ってことは今のユウは童貞なの? 女性を知らないの?」

「あ、あまり童貞童貞言わないでくれないかな? 結構気にしてるから」

「ご、ゴメンナサイ……。え、それってお母さんが拒んでいたの?」


 確かにイコさんを気遣ってしていなかったけど、その時の言葉を理由にずっと一歩を踏み出さなかったのは自分の責任だとユウは苦笑いを溢した。


「———可哀想。27年間も我慢を強いられたなんて。私だったら直ぐに受け入れてあげるのに」

「いや、シウはそんな攻めてこなくていいから……! 18歳まではそう言った行為は控えたいって言ったよね?」

「母親の不始末は娘の私が償うべきだよね? 私がユウの気持ちを受け止めてあげる」

「お願い、聞いて? ちゃんと会話をしてください!」


 なんでそんなことに? と否定する前にベッドに押し倒され、ユウはされるがままにシウと時間を過ごした。

 ただ、際どい行為はあったものの、かろうじて一線だけは死守することができた。



 ・・・・・・・★


「ただし、HPはゼロになった」


 次の更新は12時05分を予定しております。

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