第45話 傲慢な女と男の末路

 その後、会社に守岡との噂が流されたイコは退職せざる得ない状況に追い込まれた。

 散々年下のイケメン旦那を自慢していたくせに、結局15歳年上の男と不倫をしたと、あっという間に噂が広がったのだ。


「普段から上からマウントが酷かったからねー、大邑さん。ちょっとスッキリしたー」

「しかもその年上の旦那さん。最近問題起こした建設会社の社長さんらしいよ?」

「え、あの色んな女性と不倫しまくってた人? 結構ヤバい人にも手を出してたんでしょ?」

「水商売のプロ相手だけにしとけば良かったのにね。結局、節操なしの女好き故の自業自得でしょ? ざまぁみろって感じだよね」


 ———噂好きの女子社員は本当に恐ろしい。

 結局のところ、守岡の奥さんが動いて愛人達にけしかけたらしい。もちろん様々な人に訴えられた守岡は破産。従業員も愛想を尽かして出ていったとか。


 そんな彼の元に残ったのはイコさんだけ……。結局、イコさんはイコさんなりの純愛を貫いたようだ。


「お前って本当に物好きだよな? 誰が好んでこんなオヤジについて行こうと思うんだよ」

「あれ、オジサン扱いされたくないんじゃなかったの?」

「47歳は立派なオッサンだろう? もう昔とは何もか違うんだからよ」

「……ううん、ミチは昔も変わらずミチだよ。相変わらず自信家で、口が悪くて、私の好きな男」

「———俺なんかに気を遣わなくていいんだぞ? 所詮、俺たちは後腐れのない割り切った関係なんだ。若いお前一人ならどうにでもなるだろう? 幸い娘も手がかからなくなったんだし」

「………そうだね。きっとあの子には、私がいない方が幸せだと思う。私みたいなのが傍にいない方が……」


 そう口にしたイコの口元をクイっと摘んで、唇を尖らせた。


「それは言うな、イコ。お前がどう思おうとシウにとってお前は唯一の母親なんだぞ? お前が諦めてたら誰がアイツを愛するんだよ。親っていうのはな……何があっても子供の一番の味方でいないといけねぇんだ。親以上に子を大事に思う奴はいねぇからな?」

「ミチ……!」


「って、全部をぶっ壊した俺が何をいうんだって話だな。けどな……あの時、お前が子供を孕んだって言ってくれりゃ、俺だってちゃんとするつもりだったんだぞ?」

「え、そんなの嘘だぁー? 何人も愛人作ってた人が何を言っても信じられないんだけど?」

「それはお前がいなくなった寂しさを埋めるためだよ。大体気付け、あんな関係だって言ったのは、お前が俺に愛想を尽かした時のために予防線を張っていたんだよ。ただの負け惜しみだ」


 なんだそれ、とイコは苦笑を溢した。そんな回りくどいことばかり言うから、いつも選択を間違えるんだよ。


「私達がすれ違わなければ、色んな人を傷つけることもなかったのかもしれないね」

「さぁな、どうだろうな? 所詮、俺と一緒になっていても、波乱万丈だったと思うぞ?」


 それってどう言う意味だろう? 自分が好きなのはミチなのに……とイコは首を傾げた。


「大体、お前も俺なんかについてこないでユウって奴について行けばよかったのによ。ちゃんと謝れば許してもらえたんじゃないか?」

「それは……どうだろう? 所詮私なんかじゃ、釣り合わなかったと思うよ」

「それはお前が勝手に思っていただけだろう? お前のことを思ってねぇと、何年も一緒に暮らせないって」


 それなら嬉しいけど、今となっては聞くこともできない。真実は分からないし聞いたところでどうしようもない。


「いいなぁ、一番綺麗だった時のお前を独占できたなんてさ。俺もお前と飽きるほどセックスしたかったぞ?」


 飽きるどころか一度もしていないけど、ミチはもしかしてだと勘違いしているのだろうか?

 流石に守岡としたのが最後で、ずっとしていないとは言えなかった。


「なぁ、もうお互い家庭もなくて全て手放した身なんだし、そろそろいいだろう? まだダメなのか? やっぱりまだユウあの男のことが好きなのか?」

「———さぁ?」


 確かに好きだったときもあったけど、他の女にうつつ抜かした男なんて、今はもうどうでもいい。


「あー、俺もセックスしてぇーなー」

「……最低だね、ミチは。エッチなことしか考えてないの?」


 何もかも失って、六畳半の年季の入った日焼けした畳の部屋で、二人は苦笑を溢しあっていた。きっと人は自業自得の結果だと嘲笑うかもしれないが、これで良かったのだと肩の力を抜いた。


「……そういえば、あれからもずっと続けているのか? 娘への仕送り」

「———うん、私ってさ……結局シウにこれしか出来なかったから。前と違って少ししか送れていないけど」

「食費削ってまでよくやるな……。ほら、これも足しにしてくれ」


 そう言って渡されたのは三千円。15歳のあの頃に比べると額が一つ違うけど、全く違う重みにイコは涙を堪えきれなかった。


「ミチは……こんなことしなくていいのに……! 知ってるんでしょ、本当は……、シウは自分の子じゃないって」

「バカだな、イコは。男っていうのは黙って騙されてた方が幸せなんだよ。だからお前が俺の子だっていうなら、シウは俺の子だ。これからは一緒に仕送りしよう」



 ・・・・・・・・★


「こうして歪な歯車が、元の場所で動き出した」


 賛否両論あるのは分かっています……が、この辺りの終着点で許してもらえると嬉しいです。


 次の更新は15時00分、もしくは17時00分を予定しております。

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