第42話 確かにそれは面白くないわね

「そもそもね、うちの主人の女好きはビョーキ。あなたの元奥さん……いえ、奥さんですらないんでしたね」


 今となっては関係がなくて良かったと言えるが、少し複雑な心境だ。

 だがマダムは少し首を傾げて、目を瞑った。


「守岡は本当に自分の子って言ったの? おかしいわね、あの人は種無しなのに」

「種無し?」

「そうよ、無精子症っていうのかしら。彼は遺伝子を残せないの。私のことを石女うまずめと言ってたみたいだけど。でも節操なしの彼には相応しい病気でしょう? 涙を飲む子が減るから喜んだものだわ」


 でも、それなら何故?

 シウは一体、誰の子なんだ?


「………安心しなさい。彼女が守岡の子ではない、これは確実よ。けどイコという女は未知との子供だと確信していたってことは、父親が誰なのか分からない可能性が高いわね。わかってるのはその頃相手をしていた誰かってことだけよ」


 元々父親については知らなかったので今更知りたいとは思わないが、待てよ……。シウと守岡も赤の他人ってことは、守岡にシウを奪われたらイコとシウ、両方とも寝取られて母娘丼おやこどんもあり得るってことじゃ———!


「やめなさい、そんな下衆なことを考えている場合じゃないでしょう? それよりあなたが何を考えているかは分からないけど、どうせ破滅させるのなら私達の離婚が成立してからにしてくれない? その代わりこの情報をあげるから」


 渡されたのは複数の女性の個人情報。よほど貢いでいるようで、酷いお金の額が会社の口座から流れていた。


「まずは彼女達に連絡をとりなさい。皆、愛人の座で満足していたけど、本心では守岡に惚れ込んでいた女ばかりよ。自分達は愛人を強いられていたのに、一人だけ寵愛を受けるって知ったら、面白くないと思うわ」


 女性達に復讐されるイコさんを想像して、思わず「こわっ……」と本音が溢れた。きっとその恐ろしさを本妻だったマダムは幾度となく味わったのだろう。


「それと会社のことだけど。彼の会社だから私も文句は言わないわ。私もそれなりに贅沢をさせてもらったから。けれど、この事実を知ったら従業員達はどう思うかしらね?」


 決して面白くは……ないだろう。


「社長なんて肩書きは一瞬よ? 従業員を大事にできない人間なんて、クソ喰らえよ。そして何もかも無くした男と一緒に人生を歩んで貰えば良いじゃない、イコさんには」


 ニッコリと微笑んで、彼女は椅子から立ち上がった。


「私は自分に矛先が向くのが恐くて使う気にはならなかったけど、あとは貴方の自由よ? 本当なら屑のことなんて忘れて、新しい人生を歩みなさいって伝えたいけど。四十半ばの私ですら楽しむつもりなのよ? いくつになっても遅いってことはないわ」


「———流石に守岡の会社の人に迷惑を掛けるのは気が引けるので……イコさんの会社の人達に真実を知ってもらうのと、未知さんに真実だけは伝えようかなと思います」

「あら、真実っていうのは?」

「自分は子供が作れないってのと、貴方の大事な情婦はとんだ男好きですよ……ってね。だってそうでしょう? 16年前の子供を孕った時ですら浮気をしていたんですから」


 マダムは無責任にケラケラ「酷い男ね、貴方も」と笑った。


「プライドの高い守岡のことだから、きっと憤怒して手が付けられなくなると思うわ? それでもいいの?」

「事実だから仕方ないですよ」

「それにしても、貴方もよくそんな女と結婚したのね。私には理解できないわ」


 それはお互い様だと言おうとしたが、やめた。実際自分は結婚すらしてなかったんだし。でもね、擁護するわけじゃないけれど、昔は優しいお姉さんだったんですよ?


「ご武運を祈るわ。私達も早く離婚するから、それまでは辛抱してね」


 二人は硬く握手を交わし合い、そのまま別れた。



 ・・・・・・・★


「……さぁ。これからどうしようか?」


 次の更新は06時45分を予定しております。

 続きが気になる方は、フォローをよろしくお願いいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る