第39話 結婚の真意② 【過去編】
※今回の話は少し過去の話から始まります。
それからしばらくして、ユウは両親から相続した遺産と保険金を使って市内の中心部に3LDKのマンションを購入した。とにかくイコさんの両親から二人を引き離さなければならないと思ったからだ。
「あらぁ、とても素敵なマンションじゃない。私達二人じゃ戸建も広いし不便だから、アンタたちがそっちに住んで、私達がマンションに住もうかしら」
「やめてよ、お母さん……。これはユウくんのご両親から頂いたお金で買ったんだよ?」
「冗談よ、冗談! でも良かったわねー、イコは。やっぱりあんな男じゃなくてユウくんを選んで良かったのよ。全部、お母さんの言うとおりだったでしょう?」
「ちょっとお母さん……! ごめんね、 うちの母が……」
いいんだ。きっとうちの両親も活用してくれた方が喜んでくれるだろうし、これは自分の新しい家族の為のだから。
こうしてイコの両親から距離を置くことができたユウ達は、三人での生活をスタートした。
ただ、一番の誤算はシウの態度だった。中学入学を控え、思春期に入ったせいかユウにもイコにもそっけない態度を貫いていた。ずっと部屋に篭って全く顔を合わせてくれない日も少なくなかった。
「ごめん、ユウくん。こんなはずじゃなかったんだけど……」
「ううん、いいよ。だって今まで近所のお兄ちゃんだと思っていた人間が急にお父さんになったら、そりゃ嫌でしょう? シウが納得するまで待つよ」
この時のユウにシウの気持ちなんて知る由もなかった。まさか彼女があんなに悩んでいるとも知らずに、とにかく二人を守ろうと必死だった。
「イコさん、毎月のお金だけどいくらがいい? 家賃は掛からないからとりあえず10万でいいかな?」
「そんなお金、入れなくていいよ! むしろ私が払わないといけないくらいだし!」
「いいよ、家族なんだから受け取ってよ。それから家事は基本的に僕がするから気にしなくていいよ」
「いや、そんなの悪いよ……私がするから!」
「両親が亡くなってから、大抵のことは自分でしてきたんだ。一人分も三人分もそんな変わらないよ。むしろ家族のために何かができて嬉しいんだから、僕にさせて」
家族を出されると何も言えなくなったイコさんは、申し訳ないと思いつつ了承してくれた。
それと、もう一つの誤算は……イコさんの男性恐怖症だろうか?
基本的に異性との交流に嫌悪感が出るようになったイコさんは、まもとにキスもできなくなっていた。一緒に手を繋いだり、ハグすることも叶わなかった。
「………ごめん、妊娠した時のことを思い出しちゃって。どうしても身体が拒否反応起こしちゃって」
「気にしないで、イコさん。気長に待つから」
ショックじゃなかったかと聞かれたら嘘になるが、事情を分かった上で結婚したのだ。仕方ない。きっとその内治るだろうと、その時は軽く考えていた。
けれど、結局その状態が何年も続き、僕らは歳だけを重ねていた。
しばらくしてイコさんは申し訳なさそうにユウに聞いてきた。
「ねぇ、ユウくん。私さ……多分、セックスっていうか夫婦の営みってできないと思うんだけど、ユウくんは自分の子供とか欲しくない? 不妊治療をして子供作ろうかなと思うんだけど」
結婚して三年が経った時のことだった。
まさかの提案に驚いたのを今でも鮮明に覚えている。自分とイコさんの子供……。そりゃ、欲しいけどシウの立場を考えると軽々しく言えなかった。義理とはいえ、娘と良好な関係を築けない自分に子供を育てることができるのだろうか?
「今はまだいいんじゃないかな? せめてシウが大きくなって落ち着いてからで」
「……そっか、うん、わかった。変なことを聞いてごめんね?」
自信がなかったユウは断ったけど、よく考えたらイコさんの外泊が増え出したのはこの頃だった気がする。てっきり仕事が理由だと思ったけど、もしかしたら浮気相手と付き合い出したのはこの頃かもしれない。
———ただ、その真実は分からぬままで、全てはユウの憶測に過ぎないが。
結局、その時その時にちゃんと話し合ってこなかった結果が今の状況を作り上げたのだ。
そもそもイコさんの母親から洗脳のように刷り込まれた責任という呪縛によって裏切れない状況に追い込まれたユウ。そんなユウに結婚を申し込まれ、拒むに拒めない状況に陥ったイコ。そんな二人に巻き込まれて自分の気持ちを打ち明けることができないまま感情に蓋をしたシウ。
そんな狂った関係に更なる終止符を打ったのが、守岡未知という人間だった。
そして守岡という男にユウは会う決意をした。こんな関係は早く終わらせなければならない。
仕事終わり、ユウは連絡を取って近くのホテルラウンジで待ち合わせをした。
・・・・・・・★
「とうとう間男との対面です……」
次の更新は6時45分を予定しております。
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